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クロウの剣  作者: 山と名で四股
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7話「欲望の渦」

「ミュアそっちはどうだ?」


 狩りを共にする仲間と合流し情報を交換する。


「だめね。この辺りにはいないわ」


 最近、狩りの場所が変わったが、満足に獲物を見つける事ができない。


「これも全部あいつらのせいだな」


 仲間が、ため息交じりに言うのもミュアにも理解できる。兎族は、人族の度重なる侵攻により住み慣れた森を奪われ徐々に未開の奥地へと追いやられている。慣れない森や山では、満足に食糧を集めることも難しい。


「仕方ないわ。それよりも何か獲物を見つけないと村の子供たちもお腹を空かせているわよ」


「まったくだ。手ぶらじゃ帰りにくいぞ」


 2人は仕方なく獲物を求めて慣れない森を走った。丘を越え、深い森を覗き食糧となる獣を捜し歩いた。獲物を求めて初めて足を踏み入れた森でミュアが急に跳ね上がった罠に足をつかまれる。


「きゃっ!」


 勢いよく右足首をロープでまかれると宙吊りとなって木につるされる。


「何が! ミュア今助け……」


 ミュアを救助しようとする男の背に矢が突き刺さる。同時に人族の男達が現れ木につるされたミュアをいやらしく眺めた。

 片足で吊られ、罠にかかった時に武器も手放してしまったミュアに抗う術はない。人族の男達に囲まれ、木か降ろされると無理やり後ろ手を縛られ口もふさがれる。

 ミュアも必死に抵抗したが、徒労に終わった。


 縛られたまま担がれ人族の住む街まで連れられていくとそこにはでっぷりと太った人族の男がいて、ミュアを捕まえた男達に報酬だろう金銭を支払った。身なりや話しぶりからすると商人の男なのだろう。


「そいつをこっちに連れて来い」


 下卑た笑いを浮かべながら商人の男が指示すると下男たちが、ミュアを無理やり引きずるように店の奥へと連れていく。

 人族に連れ去られた獣人の女子供がどのような目に合うのか……獣人であれば誰もが知っているその事実にミュアは改めて恐怖し絶望する。


 下男たちに柱にくくりつけられたミュアは、自分を見下す人族の商人の男を睨みつける。


「ぐははははっ! 良い目をしているな」


 笑う商人の男を見て怒りを覚える。


「お前達は、もう下がってよいぞ」


 ミュアにしてみれば下男たちを下げ、何をすると言うのか考えたくもない。下男たちが、部屋から出ていくと商人の男は


「さて、高い金を出して買ったんだ。楽しませてくれよ」


 とミュアの頬を撫でる。汚らわしい手で触るなと言いたいが、口を塞がれもごもごとしか言えない。


「噂に聞いたときから、こうして獣人の女をいたぶってみたかったんだよ」


 ミュアの耳元でそう囁いた商人の男の冷たい目を見てミュアの顔から血の気が引いていく


「おやおや。脅えさせてしまったかな」


 ミュアの足元が尿で濡れる。


「粗相するとはまいったな。まあいいか、この程度の事は想定の範囲だからな」


 ますますミュアの不安が増大する。


「面倒だし脱がしちまうか」


 その言葉に必死に抵抗しようと試みるが、柱に括られた身体は自由にはならない。商人の男が手にしたナイフがミュアの服を1枚1枚切りさいて行くたびにミュアの肌がさらされていく。

 やめてと必死に懇願するが、商人の男の手は止まらない。最後の1枚まで切り裂かれるとミュアは一糸まとわぬ姿となった。


 羞恥心と恐怖心が共存するミュアの心情を楽しむような目で商人の男はミュアの前に椅子を置きそこに腰掛けた。


「ほう……こうして剥いてみるとほとんど人族と変わりませんね」


 頭の先から足の先までじっくりと眺めるように商人の男が話す。あらわになった乳房や絶対に見られたくない場所すら今は無防備に目の前の男にさらされている。


「ですが、会話もできないのは面白みにかけますね。あなたの声も悲鳴も是非聞いてみたい」


 商人の男がミュアのそばまで来ると口を塞ぐ布を外そうとする。ミュアはそれを避けようとすると男の手がミュアの乳房をつかんだ。びくりとしたミュアの耳元で


「抵抗すると痛いだけだよ」


 と商人の男が言うとミュアは抵抗をやめる。口を塞いでいた布が外されるとミュアは大きく息を吐く。過呼吸を起こしそうなほど心臓がバクバクと動いている。それでも呼吸が落ち着くと


「蛆虫め……」


「ほう……そんな声を出すのですか?」


 まるでごみでも見るかのような目でミュアは商人の男を見る。


「気に入りませんね」


 商人の男の手がミュアの頬を打つ。口の中を切ったのか鉄の味が口に広がる。それでもミュアは、商人の男を侮蔑の目で見つめる。


「その目をやめなさい」


 男は、自分を見つめるミュアの目に苛立ちを感じる。それでもミュアは商人の男を見るのをやめない。商人の男の拳がミュアの腹部に突き刺さる。胃液が口から溢れせき込むが、それでも商人の男を冷めた目で見続ける。拳がミュアの身体のあちこちを襲う度にミュアの身体が弾けるように動く、すでに痣が体中にでき青く赤くはれ上がっていた。

 荒い息で殴り続けた商人の男が


「楽しませてもらおうと思いましたが、あなたを見ているとイライラしますね。せっかく高い金まで払ったのにこれじゃあ台無しだよ」


 そう言うと男は、後ろに置いたナイフを再び手に取るとミュアの首に当てた。


「その目をやめろと言っている。俺を馬鹿にするな」


 ナイフがミュアの首に食い込みそこから血が流れる。だが、それでもミュアは商人の男を見る目を変えない。


「ふざけるな……ふざけるな……」


 怒り心頭な男が、一度首からナイフを離すと横に振る。その高さは、丁度ミュアの目がある高さだ。当然、ミュアの両目はナイフに切り裂かれそこからは血があふれる。


「きゃああああああ!」


 あまりのショックと痛みにミュアは絶叫をあげる。ギチギチと縛られた後ろ手を動かすが、きつく拘束された手は自由にはならない。ぼたぼたと血がしたたり落ちる音がするが、すでにミュアの目は光を失っている。


「その目を止めろと言ったのにやめないからだ」


 商人の男はそう言うと溜飲を下げた。だが、同時に血まみれになったミュアへの興味も失いつつある。


「泣きわめく所を悪戯するつもりでしたが、興も失せましたね。後は、下男どもに好きにさせますか。まあ、少しくらいは遊び相手になるかもしれませんからね」


 男がそう言ってドアを開けて下男を呼びに出ようとしたとき、商人の男の顔に黒い剣が向けられた。


「何を!」


 そう言いかけた商人の男の右手首がポンと切られた。その鋭い切れ味に手首を切り取られた右手首は消え去り、手に持っていた血まみれのナイフだけが床に転がる。


「ぐああああああ!」


 ようやく訪れた激しい痛みに商人の男が床を転げまわるが、部屋の中にまで入ってきた男は転げまわる商人の男を蹴飛ばし、動きを止めると反対側の手首も切り落とす。


「ぐあああああ!」


 再び絶叫をあげる商人の男の目からは、涙があふれ


「や、やめてくれ……こ、殺さないで」


 商人の男は、目の前の男に懇願する。


「さっきまでお前がそこでしていた事だと思うが?」


 そう言われると商人の男も答えようがない


「な、なんでも言う事を聞く……だから……」


「じゃあ死ね」


 男が手に持った黒い剣を振るうと商人の男の両目が切り裂かれた。


「ぐあああ!」


 小便を流し転げまわる商人の男を放置して黒い剣を持った男がミュアの側へ歩みよる。


「生きているか?」


 返事はないが、呼吸はしている。おそらく聞こえてはいるのだろう。


「人族が憎いか?」


 ミュアの予想しない質問。そして、自分の前にいるのは誰なのか。


「あなたは……誰なの?」


「俺はクロウと言う」


「クロウ?」


「そうだ。欲深い人族に抗う者だ。もう一度だけ聞こう。人族が憎いか?」


「憎い!」


「なら、お前は今日から俺の仲間だな」


 クロウは、ミュアを拘束しているロープを切ると自ら来ていた外陰をミュアにかぶせる。そして贄の剣でミュアの目の位置をすっと横に払うように振ると切られた両目が再びそこに現れた。 

 鞘に剣を納めたクロウは


「贄とした人族を糧として新たな力を授ける」


そう願うとミュアの身体を光が覆う


「えっ?」


 驚くのは無理もない。永遠に失われただろう両目が再び光を感じたのだから。あふれる涙をようやく自由になった手で拭うと目の前にいる男の顔を見る。

 一瞬、目の前の人族の姿にどきりともしたが、すぐに不思議な安心感を感じた。


「あなたは?」


「俺はクロウ。人族に抗う者だ」


 後ろから獅子の獣人と犬の獣人が現れ


「クロウ、急げ兵士がくるぞ」


「ああ。わかった。どうだ走れるか?」


 ミュアに手を差し伸べるクロウに一瞬躊躇する


「走れないなら担いでいくぞ」


 返事もできないままミュアはクロウに担がれると商人の男の屋敷から脱出する。


「あ、あの……」


 クロウの肩に担がれた姿勢でミュアが赤い顔でクロウに声をかける


「あの……走れるから降ろしてもらえない?」


 外陰だけで身体を隠しているミュアは恥ずかしくて仕方がなかった。


「そうか。大丈夫なら構わないが」


 クロウが、軽々とミュアを肩から降ろすとミュアは、前がはだけないようにしっかりと外陰を纏った。


「そうか。女性に失礼だったな。近くで服を奪うか。ロドスどこかで女物の服手に入らないか?」


「俺が探すのか?」


「嫌か? なら俺がどこかで手に入れるか。それまで……えっと名前を聞いたなかったな」


「兎族のミュアです」


「じゃあ。ミュアは、しばらく2人と隠れていてくれ。俺は街で適当に女物の服を手に入れてくるから。合流先は、最初に話した場所だな」


 そう言うとすぐにクロウは街へと引き返していった。残された3人は、気まずい雰囲気になるが


「えっと……クロウは人族なの?」


 ミュアがロドス達に聞くと2人は首を振る。違うと言う事だ。


「じゃあクロウは何者なの?」


 2人がお互いの顔を見て首をかしげる。


「あなたたちは、クロウの仲間よね?」


「ああ。クロウは仲間だな」


「仲間だ」


 そこだけははっきり答える2人を見て少し安堵する。


「私……どうなるのかな?」


 2人が再び首をかしげる。これはクロウが戻るのを待つしかないとミュアは考えた。2人に守られながら合流地点と言っていた場所で待っていると荷物を抱えたクロウが戻ってきた。


「待たせたな」


「あの……」


「ああ。服だったな」


 クロウは、荷物をポンとミュアに渡す。中を見ると女性用の服がこれでもかと入っていた。


「すまん。女性用の服に詳しくない。あるものでとりあえずは何とかしてくれ」


 ミュアは頷き、岩陰にかくれるといくつか服を取り出して身に着けていく。サイズ違いの物やデザイン的にありえない物も混じってはいたが、今まで来ていた物よりも上等な物が多く不満はない。

 ミュアは着替え終えると


「あの……残りはどうしたら?」


「俺は使えないからな。ミュアが良いように処分してくれ」


 当然、残りの男2人も使えない。


「なんで私を助けてくれたの?」


 聞かずにはいられない大事な事がたくさんある。なぜ危険を冒してまで助けに来てくれたのか。どのような力で目を治療したのか。


「街に連れられていくミュアを見つけたのは偶然だ。状況が状況だからな何とか助けられないかと考えたらああなった」


「どうやって私の目を治したの?」


 クロウは、何もないような所から不意に剣を取り出すと


「この剣の力だ。人族の欲望を奪い俺達の願いを叶える力を持っている」


「その剣で私の目を治したの?」


「俺やダルカスの腕なんかも治したからな」


 後ろでロドスが右手をなでながらそう言った。


「そんなところだ」


「あなたは、私を仲間だと言ったわ」


「そうだな。人族に大切なものを奪われた仲間だ」


 そう言ってクロウは、手を差し出す。


「どういう意味よ」


「一緒に戦わないか?」


「人族と?」


「ああ」


「勝てるの?」


「勝つために努力するつもりだよ」


 口に出しては言わないが、獣人の国もエルフの国もこのままではいつか人族に敗れる日がくるだろう。それほどまでに人族は、強大な力を持っている。その人族に抗う者だとクロウは言った。このまま村に戻ってもまたいつか同じ目に合う。そして幼い子供たちもいつかは……


「わかったわ」


 クロウの手を取りしっかりと握る。


「一緒に人族に抗いましょう」


 クロウに新たな仲間が生まれたときだった。


 

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