8話・少年のあの日
あの日のことははっきりと覚えていない。
テレビである能力者も『あの日のことははっきりと覚えていない』と言っていたので、おそらくあの飲み物の作用なのかもしれない。
だからなのか、飲み物を配ったとされる人々が一体誰だったのかは誰も分からなかった。
そんなぼやっとした記憶の中で覚えているのは俺に飲み物を渡してきたのはスーツの男で、『新商品の試作』と言っていたこと。
そしてその飲み物は少し血の味がしたことだ。
次の日、俺はもの凄い高熱を出した。
あの時ばかりは父親も心配をし病院に連れて行ってくれた。
結果として原因は分からなかったが俺はこの時『この人は俺の父親だったんだな』と再確認した。
病院には俺と同じような人が何人か居た。
さらに次の日、というより起きた瞬間。俺は俺の能力と使い方が必要最低限の範囲で分かっていた。
そして能力者には二種類いたという話のなかでは俺は前者であった。
つまり能力を持ったことに戸惑い、それを隠した。と言うよりそうするしかなかった。
もちろん人を傷つけるつもりはなかったし、傷つけるにはあまりにも使えない能力だったからだ。
俺の能力は自分が持っている物と任意の相手が持っている物を交換するというだけのものだった。
これをどのように活かせばいいのか分かるやつがいたら俺のところに来い。