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5th world   作者: リープ
一章 少年たちは変わった世界の中に巻き込まれていく
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5話・両親と隣人の話

約16年前のある日。


ある病院の一室である男の子が誕生した。

それが渡辺理久(りく)つまり俺だ。

俺の誕生には両親も喜んだ。と願っている。



しかし俺が8歳のとき、両親が浮気した。

どっちかじゃない、両方だ。

彼らはまったくの同時期に浮気をし同時期にそれがバレた。


その時の俺は浮気の意味が分からなかったが漠然と悪いことだと思い、それを父だけでなく母もやっていることがショックだった。




父は医者をしていた。それもなかなかの重役らしかった。

そのためかいつも忙しそうにし、たまに顔を合わしても大したコミュニケーションもなくいつも無表情だった。

だから小さいころの俺は彼はロボットかなんかだと割と本気で信じていた。


そして母はとても普通の主婦だった。

基本的に優しくしかし俺を叱る時は鬼のように怖くて時々お茶目なところがある人だった。

今思ってもなんで彼女が彼と結婚したのか分からない。

きっと彼以外の男と結婚していたらもっと幸せな家庭を築けていたはずだ。




そしてお互いが浮気をしているとバレた日から一年間、

彼らは会うたびにお互いを罵り合った。

さっさと離婚すればよかったのにしなかったのは父が周りの人たちへの体面を保ちたかったからだろう。

彼ほ小心者だった。


しかし8歳の俺にはそんなことは分かるわけがなく。両親が罵り合っているのは自分のせいだと思っていた。

だから俺はならべく彼らの機嫌を取るようにした。常に顔色を窺っていた。



これが俺が人の感情が分かるようになった最初の段階。





もちろんこれだけで人の感情が分かるようになったのではない。


俺の家の隣人のせいだ。


「大変だなー少年」

ある日俺は下校途中にその隣人の男に声をかけられた。


「知らない人には近づくなってお母さんに言われてるから」

「確かに、少年の親は大声で罵り合ってる割にはきちんとしたこと教えるんだな。でも俺は知らない人じゃない、少年の隣人だ」

あの大声は隣の家まで響いていたのか。


「それってほぼ知らない人じゃないか」

「少年のような勘のいいガキは嫌いだよ」


隣人はスーツを着て見た目には好青年という印象だったがどこか胡散臭い感じがした。


「少年は音楽とか好きか?」

突然聞かれた。

「あんまり」


俺は音楽の授業が嫌いだった。

無理やり大声で歌わされるのは苦痛でしかなかった。

『合唱っていうのは協調性が大切なのよ!』音楽のケバいおばさんの口癖だった。

周りの人間がそのキツイ香水の臭いに顔を歪めているのが分からないやつに協調性とか言われたくない。




「それはもったいない!今から俺の家に来い。音楽の素晴らしさを教えてやる。」


今考えたらその言葉に従ってヒョイヒョイついていったのは危ない気がするがその時の隣人はなんだか信頼できる人間のような気がした。



それから俺はたびたび隣人、もとい氷室の家を訪れた。

別に音楽を気に入ったわけではなくただあの家に居たくなかったからだ。

まあ結果として音楽は好きにはなったが。




俺は突然訪れているのにいつも氷室は家に居た。


「氷室は仕事してないの?」

「氷室『さん』な。驚くなよ・・・俺の仕事はな・・・」

もったいつけて言った。


「詐欺師なんだ」


詐欺師ときいてアニメまでの時間つぶしに見ていたワイドショーを思い出す。ちょうど詐欺の特集をしていた。


「嘘ばっかり」

「詐欺師だからな」


それから氷室は詐欺の手口やらなんやらを自慢げに語り始めた。その中に人の感情を見抜く方法もあった。

「理久はなかなか勘がいいからな、きっとプロになれるぞ」

詐欺師にプロもアマもあるか。


しかし彼は張り切って俺に人の感情を見抜く方法を伝授した。

俺もなんやかんや氷室と一緒にいるのは心地よく悪い気持ちではなかった。


俺があの家庭環境の中にいてグレなかったのは氷室のおかげのような気がする。





そんな一年間が経ったある日両親からこんなことを言われた。


「俺たちは離婚するからお前は父さんのほうに残りなさい」


当然の判断だった。

確かに9歳で様々な家事をしていくのは不安ではあったがそれでも金銭面で余裕がある父についていくのは妥当だ。


そして母は俺を強く抱きしめてから家を出て行った。





そしてそれから数日後、氷室がうちにやってきて言った。


「両親、やっと離婚したらしいな。これで静かになるぜ。ま、あまり意味ないけどな」

「どういうこと?」

「俺、引っ越しするんだ」

衝撃的だった。俺の周りから大事な人が続けていなくなるのは辛かった。


「本当はなにも言わずに出ていこうと思ってたんだけどな。さすがに可哀想だから挨拶にきた」

「・・・」

なんて言っていいか分からなかった。


「そんな顔するな、別に死ぬわけじゃないしまた会えるかもしれねーだろ?」

氷室は笑いながら言った。


しかしなぜかそのとき氷室の言葉が嘘のように思えた。言葉や表情とは裏腹に氷室はとても悲しんでるように感じたのだ。


「嘘ばっかり」

「詐欺師だからな」



そして氷室はどこかに行った。






これが俺が人の感情が分かるようになった理由だ。

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