燃え盛る熊
俺はよく目を凝らした。
するとそのシルエットは・・・
「く、熊沢さん?」
そう。
その人影は熊沢だった。
と同時にあることも気づいた。
熊沢の感情は『殺意』だった。
まさかこの人も・・・
そう思った瞬間に熊沢は腕を振りかぶった。
明らかに殴ってくるモーションだ。
「止めろ!」
突然俺の目の前にさっきまで座り込んでいた木野が両手を広げて立ちふさがった。
ボッ!ボグッ!!
熊沢の右ひじが光り
熊沢はその腕で木野の左ほほを殴った。
「グワッ!!!」
木野はそのまま右に数メートル吹っ飛んでいった。
普通の男が殴って吹っ飛ぶような距離じゃない。
「木野さん!」
俺が言うと同時に熊沢は俺の前に掌を出してきた。
その掌にはガムテープが張ってあった。
やばい。熊沢の能力は確か・・・
俺はとっさに後ろに飛んだ。
次の瞬間。
ボワッ!
熊沢の掌から一瞬炎が出た。
これが熊沢の能力か。
炎は一瞬だったがあれを顔面に受けたらただじゃすまないところだった・・・
「佐山さん!逃げて!」
「で、でも!渡辺さんが!」
「いいから!」
その間に熊沢は持っているガムテープをちぎって両腕の掌とひじに何枚も張ろうとしている。
俺たちを殺す準備だろう。
俺はとっさにポケットに手を入れた。
一応持ってきていた鍵が入っていた。
俺は鍵とガムテープを交換した。
「なに!?」
熊沢は驚いた。
「なるほど。あいつが言っていたのはお前の能力だったのか・・・
まあいい。お前から殺ればいいだけだ」
ニヤケながら言った。
そして熊沢は俺に向かって走り、腕を上げた。
だが全体的に動きが鈍い。集中すれば避けられる。
熊沢の右腕が俺の左ほほに向かう。
俺は頭を後ろにずらそうとした。
そのとき
ボッ!
急に熊沢の腕が速くなり俺の鼻をかすめた。
鼻に激痛が走る。
「ウッ!」
俺は後ろに飛び鼻を触る。鼻血が大量に出ている。激しい痛みを伴って。
「そういうことか」
熊沢は殴る瞬間にひじのガムテープを着火。その勢いを利用してパンチの威力を高めているのだろう。
だから木野があんなに吹っ飛んだのだ。
だがそれを見て俺にも勝ち目はあると思った。
あの熊沢の能力は一回炎を出すごとに張ってあるガムテープを消費するのだ。
つまり俺が攻撃を避け続ければいつかガムテープが切れる。
俺は熊沢に突っ込んだ。
まずは攻撃を誘わなければ。
熊沢はまたも右腕を振り上げ俺に拳を下ろしてきた。
一回見てタイミングをつかんだ俺は何とかそれを避ける。
この調子でいけば・・・。
しかし
ゴッ!
俺の左腹に激痛が走る。
熊沢が蹴りを入れてきたのだ。
まさかかかとにもガムテープを張っていたとは・・・
俺は転がりながら数メートル吹っ飛んだ。
「グッ・・・・あ・・・」
左腹に激痛が走る。呼吸がしづらい。
そして横たわる俺の前に熊沢は立った。
殺されるのか?
そう思ったが意外にも熊沢は俺には何もせずガムテープを拾いひじに張るだけだった。
そして熊沢は佐山さんを見た。
佐山さんは木野を重そうに引きずっている。
こいつ!まさか!
熊沢はもう俺を脅威と考えず一番傷ついていない佐山さんに狙いを変えたのだ。
熊沢が佐山さんのほうに歩き始める。
しかし熊沢は左足を出せずにいた。
俺が掴んでいるからだ。
「それはさせない・・・・。佐山さん!逃げろ!!」
俺はいま持てる最大限の大声で叫んだ。
「で、でも・・・そしたら渡辺さんが・・・・」
「いいから!!早く!!!」
俺は蹴られた。
「グッ!」
それから俺は熊沢に蹴られ続けた。
「もういいです!手を放してください!」
佐山さんが叫ぶ。
そんなことできるわけないだろ。
そしたら佐山さんが標的になる。それはダメだ。
「君が傷つくのは見たくないんだ!!」
俺は叫んだ。
顔を上げると熊沢が俺に向けて掌をかざしている。
くそ。やられる。
俺は佐山さんを守れないのか・・・・・・・。
そして俺は目をつむった。




