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5th world   作者: リープ
二章 少年たちは変わった世界の中に飛び込んでいく
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幸運を呼ぶ奇跡

壇上に登壇した貝原が口を開いた。


「この度はこの陰陵教の集会に参加していただき誠にありがとうございます。

この教団は人智を超えた力を持つ能力者。いえ、神の子を崇拝するための組織です。

かくいう私も昔、ある神の子に助けられたことがあります。

しかし皆さん、見てください。神の子はまるで人間ではないかのような扱いを受けている現状を。

こんなことは間違っています。

そこで私たちが神の子を保護し、そして訴え。

そしてこの世の中を神の子が生きやすい世界に変えていこうじゃありませんか!」



貝原が言い終わると信者たちは一斉に拍手をした。

中には泣いている者もいる。



貝原は拍手を制止し続けた。


「皆様の協力のもと、着実にその理想の実現に近づいています。

私どもはすでに多くの神の子を保護しています。

後は世の中に訴えるのみです。」


また拍手が沸き起こった。



「本日はそんな協力してくださっている皆様に神の子から恩恵がございます。

どうぞこちらへ。」



そういうと貝原は隣の扉を開けた。

そこから出てきたのはメイドの恰好をしている女の人だった。

よくは見えないが分厚い眼鏡をかけている。20代前半くらいだろうか?



信者たちの拍手は鳴りやまない。

前の男も狂ったように拍手をしている。


明らかに異常な光景だ。



「彼女は『ヒミノ』様です。

彼女もまた神の子の一人で彼女の奇跡は目を合わせた人間に幸運を呼び寄せるのです」



『おー』

会場の信者が歓声をあげた。



目を合わせたやつに幸運を与える?

そんなばかな。


「それでは・・・。そちらの男性。どうぞこちらへ」

貝原はそう言って前のほうに居たヒョロ長い男を壇上に上げた。



「それではヒミノ様。お願いします。」

「分かりました・・・」

そういうと女は俺たちに背中を向け眼鏡を取り男と目を合わせた。


すると男は驚いたような顔をし喜びの感情がさらに強まったようだった。



「どうですか?」

貝原は男に聞いた。

「は、はい。なんだか体が熱くなって・・・。本当に自分が幸運になった気がします」


その男の言葉にまた信者たちは『おー』と声を上げた。



「バカバカしいな」

隣に居た中川が言った。

「あんなので幸運になったら今頃世の中もっと平和だろ。それこそこんな宗教なんてできない位にな」

それには俺も同感だった。

逆にあれを信じてる他の信者のほうが俺には驚きだ。




「次は・・・そこの金髪の君」

貝原はそういうと中川のほうを指さした。

信者たちは一斉にこっちを振り返った。この会場で金髪なのは中川くらいだ。



「俺か?」

「君だ。君はあまり信じてないような顔をしていたからね」


俺は中川に囁いた。

「ここは素直に従ったほうがいい。目をつけられると厄介だ」

「マジかよ。」


そういいつつも中川は壇上に上がった。

おとなしくしてろよ。

「それではヒミノ様。お願いします」

「分かりました」


そして女はさっきと同じように俺たちに背を向け眼鏡を取り中川と目を合わせた。

さっきと違い今度は中川の顔が見えない。


「終わりました」

そういうと女は眼鏡をかけ中川の前からどいた。


俺は不満そうな顔の中川を思い浮かべていたが違った。


中川はさっきの男と同じような顔をしていたのだ。もちろん喜びの感情を強くして。


「どうでしょうか?」

貝原は中川に聞いた。

「わ、悪くねーな。」


なんの感想なんだそれ?

しかし信者はそれを肯定と捉えたのかまたしても『おー』と言った。



中川はぼーっとした顔で戻ってきた。

「おい。どうしちまったんだ?まさか本当なのか?」

「それは分かんねーけど俺は今、ほんの少し幸せだぜ」


まさかあの女の能力は本物なのか?




壇上では貝原がまた別の男を指名していた。






するとその時・・・





「おい!お前ら!それを止めろー!!」

俺たちのすぐ後ろで声がした。



見ると男が右手にナイフを持って叫んでいた。

左腕で中川の首を絞めながら・・・。





おいおい、どこが幸運なんだよ。




あれを幸運と呼ぶなら中川はハードなMだな。

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