2話・友人にあることを指摘される
玄関から外に出ると向かいの家のドアも開いた、中川の家だ。
「よっ」
中川が手を挙げて言った。
「あぁ」
中川とは1年前、俺たちの高校の入学式の少し前に知り合った。
中川家がうちの向かいに引っ越してきてその挨拶にきたのだ。
インターホンが鳴った、父は仕事に出ていたので俺が出ると中川父、母、そして息子が立っていた。
俺は初め見たときに少し驚いた。
その息子は髪を金色に染め耳にピアスをしダボダボのb-boy丸出しの恰好をしていた。
「ラッパー?」
俺が彼らに最初に言った言葉はそれだった。
それから中川両親は丁寧な挨拶をし「つまらないものですが」と言って本当につまらないものを渡して帰っていった。
しかしなぜか息子だけその場に残った。
「ごめん、俺の親センスが少し変なんだ」
たぶんこのつまらないもののことを言っているんだろう。
と言うか君のセンスもなかなか変わってると言おうと思ったら
「ま、俺の恰好も人のこと言えないけどな」
と中川が言った。
「その自覚はあるんだな」
俺は笑いながら言った。
それから話を聞くと同い年でさらに春から同じ高校に行くこと、更には中川はヒップホップよりロックが好きだと分かり仲良くなった。
「おい、今朝のニュース見たか?」
登校の途中のバスの中で中川が俺に聞いてきた。
「あぁ、能力者が射殺されたやつか?」
「そ、それ。もったいないよなー」
「なにが?」
「だって人とはまるっきり違う力を持ってんだぜ?犯罪なんかじゃなくてもっと楽しいことに使えばいいのに」
「そっちか」
俺は数少ない能力者が減ったことに対して言ったのだと思っていた。
「確かに犯罪はダメだけど楽しいことって例えば?」
俺は聞いた。
「そりゃ知らねーよ。能力なんて人それぞれなんだし」
だったらそんな話題ふるんじゃねーよ。俺は隣にいる中川を見た。中川は期待に満ちた様な顔をしていた。
「俺は人と違うってことに憧れてんだよ」
前に昼休み中に俺が『なんでそんなに能力者関係のことを調べてるんだ?』と聞いた時の返事がそれだった。
「だからそんな恰好してるのか?」
今朝も中川は生活指導の教師に注意されていた。
そこまで服装に厳しくない学校でも中川の金色の髪は好ましくないようだった。
「これはちげーよ。こんな恰好してるやつなんか結構いるもんだぜ?どっちかって言ったらこれは人と違う人を見つけるためにやってることかな」
「見つけるため?」
「そ、大体の人間ってのはさ見た目を重視するだろ。警官じゃなくても警官の恰好してれば誰もがペコペコするはずだろ?」
「『誰もが』かは分からないだろ」
なんとなく反論してみる。
「そ、その『誰もが』じゃない人間こそが人と違う人間ってことだよ」
分かるような分からないような理論だな。
「それとその恰好がどうつながるんだ?」
「だからー、こんな恰好してたら大体は『あいつは不良だ、近づかないでおこう』って思うだろ?」
「それを思わずに近づいてこれるやつは『違う人間』だと?」
「その通り、さすが違う人間1号」
やっぱり分からない。きっと分からなくても困らない。
「で、能力者なんてのは『違う人間』の最上級だろ」
「それは何となく分かる気がする」
能力者なんて特別に決まってる。しかしさらに別の疑問が浮かんだ。
「それでお前は『違う人間』と仲良くなって何がしたいんだ?宗教でも作るのか?『違う人間教』?」
俺は聞いてみた。
「なにがどのように違うのか学ぶんだよ。で、最終的に俺はそれを吸収して究極の『違う人間』になるわけ」
「・・・楽しそうだな」
また新しい分からないが出てきた。
・・・ん?1号?
「俺はその恰好を始めてから最初に近づいた人間なのか?」
「おい、着いたぞ」
中川に起こされた。俺はいつの間にか寝ていたらしい。
「あの短時間でよく寝れるなー、特技の欄にでも書けば?」
「うるせえ」
それからいつものように退屈な授業のオンパレード。
例の武谷の授業もあった。
少し前に世界には勉強したくてもできない人々がいるという番組を見た。本当に彼らはこんな退屈なものを受けたいのだろうか?
まあ本人の立場になってみないと分からないところだろう。
それこそ『どこか知らない誰かが殺されても・・・』という『誰か』と同じようなもので、殺される人や勉強したがってる人たちはまるで違う世界の人たちのように思える。
そして昼休みになり俺の周りには中川、それと相田がいる。
相田は一年の頃に仲良くなった友人だ。
長身で成績が良く穏やかで落ち着いている明らかな優等生で劣等生の中川が
「お前はなんでいつもそんなに落ち着いてるんだ」と聞いたら。
「名前が『あ』で始まるからいつも授業とかで最初に指されるんだ。だから突然のことの対処には慣れてるんだ。」とこれまた穏やかに言っていた。
「そういえば、俺は『違う人間1号』なんだよな?」
俺は中川に聞いた。
「あ?ああ、よく覚えてるな」
中川はパンを食いながら答えた。
「なにそれ?」
相田は不思議そうな期待しているような顔をしていた。
「そういえば相田は知らなかったな」
それから俺は前に聞いた中川の謎理論を話してやった。
「・・・って話だ」
「あはは、なにそれ!」
相田はとても面白そうに笑った。こんな話でこんなに笑うなんて相田もなかなか『違う人間』な気がする。
「それがどうした?」
中川は聞いてきた。
「いや、お前は俺からなにか学んだのかと思って」
確かそんな話をしていた。
「あぁ・・・一応学んだと言うか気づいたかも知れないことはあるぞ・・・でもこれは吸収できない」
中川は歯切れの悪い返事をした。言いづらいことなのだろうか?
「なんだ?怒らないから言ってみろ」
「僕も聞きたいな」
相田も賛同してくれた。
「えっとな・・・」
中川にしては珍しく言い淀んでいた。
「少し前から思ってて、違ったら悪いんだがお前・・・」
「能力者じゃないか?」