16話・不法侵入しちゃったぜ
「はい、これ」
玄関で俺は中川からクラッカーを渡された。よくある円錐形で先の紐を引っ張るタイプだ。
「なんだこれは?」
「見ての通りクラッカーだよ。これを武谷の後ろで鳴らしてすぐさま武谷の顔を激写!」
中川は手で四角を作り素早く顔の前にもってきてそれを覗いた。
なんとも原始的な方法だな。渡されたクラッカーを見て思った。
いつ帰るのか分からなったので少し面倒だが俺たちは自転車で学校まで向かった。あたりはすでに暗い。
その途中に思った。
「武谷を驚かした後はどうするんだ?もしかしたらキレて殴ってくるかもしれないぞ」
その可能性は十分あった。むしろ武谷の性格を考えたらそうとしか思えなかった。
今までは『教師』という肩書が邪魔して暴力を使わなかっただけで、『教師』ではない今の武谷に怖いものはない。
「決まってんだろ?ダッシュで逃げる!」
中川は太ももをポンポン叩きながら言った。
中川はこんな恰好をしといて喧嘩が滅法弱いらしい。
前に街中で本物のツッパッたやつが中川に喧嘩をふってきたことがあった。
その時の中川は即座に逃げ出した。ものすごい速さだった。
一瞬で見えなくなった中川を俺とヤンキーは茫然と見ていた。
「なんなんだアイツ?」
ヤンキーが俺に話しかけてきたので答えた。
「分かりません」
そんなことを思い出してるうちに学校に着いた。
俺たちは適当なところに自転車を停め刈田を待った。
相田は諸事情で遅れるらしく俺たちだけで決行することにした。
しかし八時を過ぎても刈田は来なかった。
ついに痺れを切らせた中川が言った。
「もういいや俺たちだけでやろうぜ」
俺は早く帰りたかったので賛成した。
そして俺たちは校門をよじ登り校舎に向かった。二階にある職員室の明かりが点いていた。
「でもどうやって入るんだ?さすがに鍵かけてるだろ?」
「これ使うんだよ」
中川は手に持っていた鍵を出した。まさかこいつ。
「盗んだのか!?」
万引き犯の俺は叫んだ。
「ちげーよ。刈田が作ったらしいぜ。すげーよな」
また驚いた。あいつは空き巣でもやっているのか?
中川は鍵を開けドアノブを回し引いた。しかし『ガッ』と音がしドアが振動しただけだった。
「・・・開いていたみたいだな」
武谷が鍵を閉め忘れたのだろうか?
そして俺たちは校舎の中へと入って行った。
とそのとき
『パンッ!!』
という乾いた大きな音が廊下に響いた。
何事かと思い俺たちは顔を見合わせ職員室に走っていった。




