11話・友人と課題をする
「そのすべてを知ってるやつってのは誰のことなんだよ?」
俺も中川に倣い声のボリュームを下げたが明らかに興奮を抑えきれていない。
なにか知っているとは思ったがまさか『すべて』だったとは。
「もったいぶらずに教えてよ」
相田も興奮しているようだった。
「刈田だよ」
「刈田ぁ?」
思ってもみなかった名前にまた驚いた。
刈田とはこれまた一年の時に知り合った男子生徒だ。
今は別々のクラスになってしまった。
刈田は背が小さく声も小さい、とても気の弱いやつだった。
そして一番の特徴は頭がとても良かったことだ。
いつも試験の順位では刈田は一位、相田は二位だった。
しかし他のクラスメートはそれをまるで欠点のように刈田のことを『ガリ勉のガリ田』と呼んだ。
そんな刈田と俺たちが知り合ったのは奇しくも武谷のおかげだった。
武谷は機嫌が悪いとよく刈田に八つ当たりをしていた。
謎の理由をつけては刈田だけ課題を多くした。
気が弱くそれでいて課題をこなせるだけの能力がある刈田は恰好の的だったのだろう。
とても胸糞悪かった。
それとは別に中川も課題を増やされていた。
あんな恰好をしていたら目をつけられるのは当たり前だろう。
俺は中川のことだから課題なんて無視すると思っていたが違った。武谷からの課題だけ全力で取り組んでいたのだ。
なんでそんなことをするのか聞いたら。
「俺はあいつから出された課題をすべてやり切ったあとに試験でボロボロの点数を出してやる!そしてあいつに『お前の課題はどうしようもないほど無駄なものだ』と言ってやるんだ!」
と言っていた。それが武谷に効くとは思わなかったがやらせてみようと思った。
そして俺は提案した。
「だったら同じ課題を出されてる刈田と一緒にやったほうが効率良くないか?」
それから中川と刈田はちょくちょく一緒に課題をするようになった。
なぜか俺や相田を巻き込んで。
そして中川があの決意を表明してから初めての試験。
もちろんこれまでに出された課題は完璧にこなしてきた。
中川の結果は百点満点中十二点だった。
そしてその答案が返却されたとき中川は言った。
「見ろ!お前が出した課題をすべて完璧にこなした俺の点数を!つまりお前の課題はどうしようもなく無駄なんだよ!」
それを言われた武谷は明らかに怯んでいた。まさか効くとは思わなかった。
「分かったら俺と刈田に無駄な課題を付け加えるな!」
その一言は余計だった。
刈田は珍しく笑っていた。
結果的に中川と刈田には追加で課題を課せられることはなくなったが全体への課題は今まで通りだった。
最後のあの一言がなければ上手くいけば全体の課題も回避できたかもしれなかったのに。
それと後で聞いた話だと実は中川はあの試験は結構解っていたらしくわざと間違えたらしい。
それを聞いてまた刈田は笑っていた。




