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7話 仲間になった

始まりの町スターメン。


見た目はあれだ。もうただの西洋風な建物が建ち並ぶ町だ。何の変哲もなく、言ってしまえば面白みがない町。適度な人口。適度なのどかさ。どれを取っても何も特色などなく、ありふれていた。


だがしかし。


僕はこの光景に妙な感動をおぼえていた。

異世界。ここは異世界なのだ。皆んな大好き異世界なのだっ!


ふと見れば、そこには宿屋。酒場。カジノ。さらには武器屋。防具屋まで。そして、町の奥に聳え立つ大きな石造りの建物──ギルドまでもがあるのだ。


これは感動をおぼえざるを得ない。

僕が興奮のあまりハァハァ言っていると横から水を差すように、


「……な、何をそんなに興奮しているんですか……」


風流楓はジト目攻撃を仕掛けてきた。差すような視線が痛いが、気にしない。


何せ、


「あ、それじゃあ」


お別れの時間なのだから。

僕は思い出したように口にした。

当然、何の脈絡もない僕の言葉に風流楓は、は? と首をかしげる。


「いや、町に着いたんだ。ここでお別れだな」


そう。僕は風流楓と約束していた。町まで送り届けると。そこからは何も決めていないが、殺しにかかってくるような奴とは共に行動したくないからな……。


「……そうですか」


肩を落とし少し残念そうに言った。


「夏さんはこれからどうするつもりなんですか?」


「そうだな……。僕はこの町にしばらく居つくよ。やりたいことがあるし」


「ふーん」


風流楓は素っ気ない返事でしばらく黙り込む。どうしたのだろうか。


何やら嫌な予感がするが。


やがて、風流楓は口を開く。


「なら、私も一緒に居ていいですか、ね?」


こいつ……とんでもないことを口にしやがった。


「今なんて……」


「いや、だから私も夏さんと一緒にこの町にしばらく居つこうかな、と」


いやいやいやいやいやいやいや。何の冗談だよ。何だよ、また僕のことを殺す気か? 寝込みを襲うとか、ふと油断している時に襲ってくるとかそんなことを考えているのだろうか。可愛い顔をして恐ろしいことを考えてやがる。


「てか、お前……。魔王は倒しに行かないのかよ」


「行きますけど、その前にこの世界のことを知り、この世界に順応し、魔力を高めたいと思うんです。どの道、今魔王のところへ行っても恐らく返り討ちに合いますからね。そのためには力をつけ、魔王についても調べなければなりませんし、何より居場所もわからないですしね」


意外と考えていた。馬鹿みたいに魔王に突っ込んで勝とうだなんて上手く行くわけがない。そもそも、魔王の居場所もわからないんだ、それが普通の人間の思考である。


その点は僕もどうしようかと考えていたところだ。


仲間。所謂、パーティーが欲しいところでもある。

風流楓を一時的な仲間として受け入れるのもまたある種の手段なのかもしれない。ただ、問題は互いが互いを排除しなければならない敵だということだ。


まぁ、まだ互いの素性もよく知らないし、ここは拒否した方が無難だな。


「それはまぁ、良いと思うが僕は一人でこの町に居つくことにするよ。あくまでも一人、でな」


「…………」


風流楓は無言だった。うつ向き、無言。


怖い怖い怖い! 何? ここから逆上展開が始まんの?


しかし、よく見ると風流楓は……。


「……グスン……グスン……。一緒に居てくれないんですか……? 何でですか……。私、怖いんですけど……」


泣いていた。


「…………えぇ……」


風流楓は目を真っ赤にして、僕に縋るようにして僕の服を掴む。


正直、鬱陶しい。てか、痛い!


「ちょ、止めろ止めろ! 痛いから! お前の涙で服が汚れるから!」


「みずでないでくだざいよ〜!」


「いや、ちょ、止めてくんない⁉︎周りの人が見てるから!」


僕たちのこのやり取りに、町人が何アレ的な感じで見てくる。それに加え、この世界には似つかわしくない服装。通報もんだよコレは!


「うぅ……なんでもじまずがらおねがいじまず〜」


「…………」


どうしよう……。


今からの僕のプランではとりあえずこの町にあるカジノで一稼ぎしてこようと思ったんだけど……。こいつと居たら行けねーじゃん。


「…………グスン……グスン…………。ダメですか……?」


また上目遣いを……。


可愛い。可愛いけれども……怖い! 何されるかわからないし……コレも風流楓の策略なのかと考えると、ここは断固拒否である。


「ダメに決まってんだろ。ダメですか……? じゃねーよ。僕の前から去りなさい。早く!」


「…………お願いします……」


まだ僕の服を離さない風流楓。いい加減しつこいな。


「ダメなもんはダメなんだよ。僕とお前はいずれ殺し合う仲なんだ。その辺はオッケー?」


「…………それはそうですけど……」


「だろ? 一緒に居ても良いことなんてないんだ。互いに。だから、早くどっかに行けよ」


「でも……」


ダメだこいつ。

依然として僕の服から手を離そうとしない。寧ろ、その力はどんどんと強くなっている。これじゃ服が破れちゃうよ。


「…………お願いします……! 私、こんな見知らぬところで一人だなんて考えられないんですよ……。怖いんです。だから、夏さん……? ね……?」


出た。必殺上目遣い。

その威力は常人ならば吐血して死に至るものだ。

かく言う僕もそろそろやばい。

可愛さのあまり愛でたくなる。

この名前+……ね? の部分が個人的にグッとくるところだ。


仕方ない。よし。もう腹をくくろう。

このままだと僕が死んじゃう。ていうかこれ以上拒否れない。


照れ隠しを込めてこんなことは言いたくないが。


やれやれだぜ!


「ああ! もうわかったよ! わかりました! オッケーオッケーですよ! 僕は心の広い男だ。これから一生お前のことを面倒見てやるよ!」


「いや、そこまで頼んでないんですが……」


一生面倒見てやるは言い過ぎたか。こっぱずかしい!


しかし、風流楓はそんなキザな僕の言葉に密かに口元を緩ませ、


「……でも。ありがとうございます!」


なんと言うか今まで見たことのない綺麗な、そして可愛らしい笑顔で風流楓はそう言った。


「じゃあ、とりあえずひと段落したところで飯でも食いに行こうか」


「はい! 夏さん!」


こうして、風流楓は僕の仲間になったのだった。


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