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4話 ハッタリ

  「……クククっ……ハハハハっ!」


  「きゅ、急にどうしたんですか。追い詰められて気でも違ったんですか」


  僕の豹変に風流楓は動揺して、手を止めた。

  気でも違ったのか、確かにそう言われればそうなのかもしれない。追い詰められて、急に笑い出すなんて、常人がやることではない。


  だが、あくまで僕は冷静であった。いや、冷静でいなきゃならなかった。ここで狼狽してしまえば、本当に死んでしまう。こんな時こそ、冷静でいなきゃならない。


  「まさか……」


  風流楓の顔が強張る。本能的に何かを察知したのだろう。


  だがしかし、今の僕に本能的に何かを察知するようなものはない。そう、これは……。


  「……ククク。そのまさかさ」


  ハッタリなのだから。


  僕は賭けに出てみた。この状況下で最も有能的な手段だ。この状況下においてハッタリに勝るものなどない。

 

  「……夏さん、あなた、やっぱり魔力を扱えるんですね」


  風流楓は賢い子だ。察しの良い子だ。故の弱点。故に相手に利用される。


  まぁ、それも仕方ないと言えば仕方ないことだ。僕たちにとってこの異世界というのは非日常的であり、さらに神様が出した条件──魔王にとどめを刺した者だけが修復された元の世界へ帰る権利と一つだけ願いを叶えられる権利を得られるという条件において疑心暗鬼が生じるのは当然のこと。


  言うなれば、互いは敵同士。同じ境遇──仲間であれ、僕たちはこの世界に来た時から敵同士なのだ。必然的に神様の条件下において騙し、騙されは当然のこととなる。故に心理的駆け引きを強いられる。


  が、僕のかましていることはハッタリだ。


  「……ああ。そうだよ。だが、気付くのが遅すぎたな」


  「……くっ」


  風流楓は後ずさろうとするも、僕の眼光に気圧され止める。額からは大量の汗が滴っていた。


  馬鹿か、こいつは。ハッタリだと言うのに。


  「ま、なんと言うかお前の負けだな。詰んだな。今、お前は僕の攻撃範囲に入っている。一歩でもそこを動いてみろ。瞬間的にお前の首が飛ぶことになるぞ」


  「……まさか、あなたがここまで賢い人間だとは思いませんでしたよ。馬鹿、弱者を装って私をハメたんですか」


  「ああ、その通りさ。だいたい、おかしいとは思わなかったのか? 僕がマニュアルの存在を知らないってこと自体に。普通に考えればわかるだろうけど、僕にだけマニュアルを渡さないようなミスを神様がすると思うか?だって、そうだろ。神様は僕たち四人に魔王を倒してほしいんだぞ? チャンスを与えるって言ってたんだぞ? そんなわけないだろ、馬鹿が」


  嫌みたらしく。まるで、悪人みたいに。

  ただ、こうでもしないと僕が殺されてしまう。出来るだけ風流楓を怖がらせ、降伏させ、武器を捨てさせ戦意喪失させたい。


  確か、風流楓が変身していられる時間は三分と言っていた。そして、あれからもうすでに相当の時間が経っているはず。

  時間稼ぎさえしてしまえばこっちのもんだ。あとは、ただお喋りをして、風流楓の戦意を削り取れば……。


  「……本当、最低ですね……あなた」


  顔を真っ赤にしてクッと睨みつける風流楓。彼女の瞳からは僅かに雫が溢れ落ちそうだった。泣いているのだろう。可哀想に。


  「おうおう。いくらでも言ってけや。お前はここで死ぬんだ。悪口ぐらい我慢してやるよ」


  「……そうですか。なら、いくらでも言ってあげますよ、このカス。早く殺してみろこのカス。呪ってあげますから。死んだら、呪ってあげますから。絶対に呪って、呪って呪って呪って呪って。殺してあげますから。早く殺してください、このカス」


  もう、目を真っ赤にして風流楓はただひたすら僕のことを罵倒するだけであった。

  可哀想。だけれども、ここで謝ったり、引いてしまえば僕が殺される。そんなのはごめんだ。


  ただ、風流楓がガチなトーンで、ガチな表情で言ってくるものだから、心が痛む。


  「さ、どうしたんですか。怖いんですか。なんなら、首ちょんぱ覚悟で私からあなたを殺しにいきますよ」


  あ、なんかやばい。そんなことされたら、本当に僕が殺される……。

 

  「……では、サヨナラ夏さん」


  「え、いや、ちょっと待って……!」


  僕が狼狽したと同時に風流楓が刀を構えた瞬間。


  再び、光が風流楓を包み込んだ。

  解けた魔法。

  消える刀。

  風流楓は元の制服姿のただの女子高生に戻った。

  そのまま、ばたりと倒れ込む。時間切れか。


  「……はぁ」


  僕は安堵とともに風流楓に駆け寄った。

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