最終話 都市へ
あれから一ヶ月の月日が流れた。
始まりの町スターメン。
僕と風流楓はこの町で一ヶ月過ごし、魔人との戦いの傷を癒していた。始まりの町で一ヶ月も過ごすとはゲームじゃ考えられないほどローペースなのだけれど、まぁ、これは現実。いくらここが異世界とは言え、魔法や魔物といった非現実的なものが蔓延るとは言え、ゲームのようにはいかない。これから先が思いやられるところである。
考えながら、僕は宿の部屋にて窓からスターメンの町並みを眺めていた。この部屋もこの町もなんだか名残惜しい気がする。
今日でこの町とはお別れだ。
「準備できたか? 楓さんよ」
「そうですね。まぁ、ぼちぼち。後はお世話になった人たちに挨拶くらいでしょうか」
鏡の前でタイを締めながら、身支度をするのは新調した制服姿の黒髪の少女──右目に黒の厨二チックな眼帯をした風流楓だ。
この世界にきて約一カ月経ったけれども、制服姿というのにはわけがある。それは僕も風流楓もこの姿じゃないと落ち着かないからだ。
なんやかんや言って、僕たちは元の世界が恋しい。この世界とは根本的に違う元の世界を思い起こすような品がこの制服。言わば、ホームシックを抑えるためのものだ。
風流楓は鏡の前で自分の制服姿を見ながら、一回転。その姿はまるで、登校前の女子高生の身支度を見ているかのようだった。
「今まで病人服でしたらね。こうしているとやっぱ、落ち着きます」
「そうか。なかなか、似合ってるよ」
「いや、当たり前じゃないですか。仮にも私は現役女子高生ですよ? 制服が似合わない女子高生なんていないと思いますが」
「そこは照れるところだろうがっ! 普通、服装とか男に褒められた女は頬を赤く染めるんだよっ! なんでちょっと喧嘩腰なわけ!?」
相変わらずと言うかなんと言うか。でもまぁ、これも彼女が生きていたからこそできるやり取りだ。もっと言えば、僕が生きていたからこそ、ユーリが生きていたからこそ、そして、魔人を討伐出来たからこそ今こうして笑っていられる。
あの日、一つ何かを失えば、また成せなければ今というこの一瞬は訪れることはなかった。まぁ、何というか物凄い奇跡みたいなものだ。
「さて、そろそろ行こうか」
「そうですね」
こうして僕たちはこれから待ち受ける苦難を知らず、新たな一歩を踏み出した。
中途半端ですがこれで終わりにします。
最後まで見てくださった方ありがとうございました。