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やがて、僕たち勇者は殺しあう  作者: いろはに
第1章 竜装・火竜篇
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23話 月が綺麗ですね

  火柱はやがて、消え去る。カオセルスの骸は灰となり、夜空、天高く舞い散る。


  戦いは終わった。

  ものの数時間前までここで死闘が繰り返しされていたとは思えない程の静寂が場を支配する。

  カオセルス亡き今、そこで勝利の余韻に浸って安堵の眠りについているのは甘木夏と風流楓、ユーリの三人の少年少女だった。


  そんな中、沈黙を破る者がいた。


  「…………生きてる……」


  風流楓である。

  綺麗な黒髪は乱れ、その無垢な身体は血に塗れる。物凄い脱力感が身体を支配し、上手く動くことが出来ない。天からこちらを覗く綺麗な月を捉えるのが精一杯だった。


  「………………」


  気づく。


  「…………見えない」


  自身の視界の半分が闇に染まっていた。


  「…………痛かった」


  つぶやく。


  「…………怖かった」


  次第にその顔は歪み、涙で濡らされる。カオセルスとの戦いを思い出し、自分の愚行を憎む。変に勿体ぶってトドメを刺さなかった自分が馬鹿らしい。魔装状態であれば、あの程度一撃で仕留めれた筈なのに。


  ────馬鹿だ。

 

  あの時、痛めつけることに夢中にならず、一思いに殺しておけばよかった。だが、楽しかったのもまた事実。自分より弱い者を痛めつけることが快感だった。


  しかし、その結果がこれだ。逆に痛めつけられ、今に至る。全身を傷つけられ右目の損傷。視力の低下及び失明。下手したら、今後この身体自体動かないかもしれない。


  風流楓の胸中は後悔が支配していた。


  「…………ま、生きてるだけでも良しとしましょうか」


  半ば生に対して諦めていた風流楓にとって、生きているということはまさに奇跡としか言いようがない。ハンディキャップを背負うことになったとしても、それは自業自得が招いた結果であり、悔いても仕方のないこと。ならば、命があるだけでも、と己を納得させる。


  時間は巻き戻せない。 過去には戻れないのだ。

 

  もう、納得するしかなかった。

  受け入れるしかなかった。

  どうすることも出来ないのだから。


  それに納得しなければ彼にも悪い。


  「…………夏さん」


  傍ら、疲れ切って仰向けで寝ていた少年──甘木夏に目を向ける。


  恐らく、彼が全てを終わらせてくれたのだろう。この命があるのは彼のおかげだ。彼のためにも、この先、何を背負おうが生きねば。きちんと生きることが、甘木夏への精一杯の恩返しなのだ。

 

  だからこそ、納得する。だからこそ、受け入れる。


  折角、生かされた命なのだから、ここで泣き喚いたら彼も良い気はしないだろう。


  「ありがとうございます」


  聞いていないのかもしれない。届いていないのかもしれない。でも。それでも、その言葉を口にせずにはいられなかった。


  甘木夏の顔を見ると無性に、


  「…………なつ……さん……」


  涙が溢れてくる。

  これはさっきの後悔の涙ではない。


  ──寂しかった。もう会えないかと思った。


  動かない手を甘木夏へと伸ばす。


  も、思うように身体は動かずには憚れる。


  でも、これで良いのだ。彼は遥か彼方の存在。ヒーローなのだから。


  風流楓は知っていた。今まで彼が嘘を言っていたことを。実は無力だったことを。でも、それを抜きにしても風流楓は甘木夏に可能性を感じていた。いや、甘木夏という男に何処と無く惹かれていた。何も出来ないかもしれない。自分より弱いかもしれない。何より敵だ。この世界において、いずれ争わなければならない存在だ。でも、風流楓はそんな甘木夏に憧れを感じていた。だから、嘘でも良かった。何なら、このまま一緒に居たかった。心地良かった。


  「………………」


  この気持ちは何なのだろうか。

  心がもぞもぞする。

 

  無性に彼に触れたい衝動が生まれた。

  せめて、手だけでも……。


  動かない身体をどうにかやっと動かし、手の届く距離へ。後は手を伸ばすだけで彼に触れられる。


  「………………」


  その手は甘木夏の手へと届いた。でも、まだ違う。こうじゃない。


  風流楓はその華奢な身体をさらに近づける。

  互いの心音が聞こえるくらいの距離まで。


  「…………ふふふ。夏さんって、こう見ると中々可愛い顔してますね」


  頬を染め、大胆かつ在り来たりな台詞を口走る。思わずのことで、ハッと、自分が何を言っているのかを自覚した後に、耳まで紅潮。


  ──でも、もうここまできたら。


  風流楓は高鳴る鼓動の中、さらに甘木夏へと肉薄する。


  誰も見ていない。今なら、彼の唇を──。


  でも、もし、今彼が起きたらどうしよう。どう言い訳しよう。そんなことが頭に浮かび、その行為が憚れる。


  いや、ここまで来たのだ。もう後には引けない。風流楓は続行を決意。


  するも、


  「…………やっぱり、ズルいですよね」


  風流楓は留まった。


  しかし、その手は強く握られる。そして、そのまま天に浮かぶ月を物思いに耽ながら、


  「月が綺麗ですね」


  言い残し、その目は閉じられた。

 

 

 

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