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やがて、僕たち勇者は殺しあう  作者: いろはに
第1章 竜装・火竜篇
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22話 決着

 悠長にカッコつけて言うと、もがき苦しむカオセルスの手から解放された風流楓の存在に気づく。「あ、やべ」と短く漏らし、危うくながらもお姫様抱っこでナイスキャッチ。傍らに寝かせる。


  気を取り直して、


  「てめぇはこの僕を怒らせ過ぎた」


  業火に焼かれるカオセルスに言い放つ。

  その足はカオセルスの元へ。


  焼かれるもがき苦しむカオセルスは、その歩み寄る足に気づかず、ただただ絶叫するだけ。もう、それどころではないのだ。腹の中から炎が噴き出し全身火ぐるま。加えて、炎は体内でも暴れ狂う。肉は焼け、内臓も焼け、骨までも。カオセルスの絶命はそう遠くはない未来で待っていた。


  甘木夏はそんな燃え盛るカオセルスの目の前で足を止める。これは彼から発せられた炎。当然ながら、熱さは感じない。甘木夏は火だるまのカオセルスの髪を掴み、


  「これは…………ハラヤ村の人々の分!!」


  何処かの漫画で見たことあるような台詞を口走りながら、右頬に一撃をお見舞い。カオセルスはそのまま勢い良く、壁きへと吹き飛ばされる。


  「ぐぁはっ……」


  間髪入れず。


  「これは…………ユーリの分!!」


  今度は、うずくまるカオセルスの横腹に蹴りを入れ、さらに壁へとめり込ませる。


  「ぐぁはっ…………だずげ……」


  「これは…………一度お前に殺された僕の分!!」


  「ぐ…………ぁ…………」


  「そしてこれは…………てめぇに痛ぶられ続けた楓の分だぁっ!!!」


  「………………ぐ…………」


  「お前のせいでっ! お前のせいでっ! お前のせいでっ! お前のせいでっ! お前のせいでっ!お前のせいでっ! あいつ……楓は……」


  傍らでぐったりとしている風流楓を一瞥し、


  「右目を失ったんだっ!!」


  何度も何度も何度も何度も何度も何度も怒りをその足に込め、蹴りを入れる。


  恐らく、風流楓の右の瞳は元には戻らないだろう。甘木夏はそんなハンディキャップを負ってしまった風流楓のことを思い、また憂いその行為をやめない。加速させていく。


  「それにもしかしたらこのまま目を覚まさないかもしれないっ! 闇の中で一人、過ごさなければならないのかもしれないっ! 生きているわけでもなく、死んでいるのでもなく、自我を残したままずっと暗闇でっ!」


  甘木夏は危惧する。この戦いが終わった後、風流楓がどうなってしまうのか、今の彼女の現状を見ればそれは予測不能。生きるか死ぬか、目を覚ますか覚まさないか、誰にもわからない。だから、そのどうにもならない感情──不安をカオセルスにぶつけ続ける。


  「……………………ぁ……」


  「これは仕返しだっ! 僕もお前を無意味に痛めつけてやるっ! そして、殺してやるっ! 痛いだろっ!? 死にたくなるほど痛いだろっ!? ハハハッ! どうした!? 何とか言えよおい!」


  悲痛の叫びは虚しくこだまする。

  返ってきた返事はメラメラと燃え盛る炎の音のみ。

  あのおしゃべりだった魔人カオセルスは辟易、いや、完全に沈黙していた。


  「…………………………」


  結果的にカオセルスはもうすでに絶命していた。

  けれども、甘木夏はそれをやめない。死屍に鞭打つかの如く、その足を使ってそれを表現した。


  滲み出てくる怒りや悲しみ、憎しみ、怨み。それをぶつけ続ける中、甘木夏は自我を忘れていた。


  だが、ハッと気づく。


  「これじゃあ、こいつと同じだ」


  痛め続けることの無意味さを理解し、自我を取り戻す。確かに憎い。こいつの屍体をもっともっとぐちゃぐちゃにしてやりたい。でも、それじゃあこの化物と同じだ。


  ──ホンモノの化物にはなりたくない。


  甘木夏はその行為をやめた。


  そこで、何とか一思いに葬ってやろうと考える。

 

  「…………最期は灰にして供養してやるよ」


  燃え盛る炎に手をかざし目を瞑る。奥底に眠る魔力を呼び覚ます。魔力の消費を加速させていた。

 

  ──もっと燃えろ。燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ!


  次第に炎は高く上がり、天をも突き破る。


  闇に浮かぶ唯一の光源──星々と大きな月がこちらを覗いていた。

 

  「ああ、確かこの世界に来た時にもこんな月、見たっけ」

 

  物思いに耽る甘木夏。

  たった数日前のことが懐かしく思えてくる。

  あの時とは、全てが変わってしまった。


  「あの時の僕はまだ人間だったなぁ……」


  化物を殺してしまった今の彼はすでに化物。化物になりたくなくても、化物を殺してしまった時点で彼は化物なのだ。


  いくら彼が否定しても、それは変わらぬ事実。傍目から見れば、化物と大差ない存在なのだ。


  「よし、決めた。絶対に僕が魔王を倒してやる。そして、戻るんだ。元の世界に。元の僕に」


  胸にそう刻んで、意気込む甘木夏。

 

  だが、その望みを叶えるためには彼女──風流楓と争わなければならない。最悪、その手で彼女を───。

 

  その時、彼は『ホンモノ』の化物となるだろう。化物を脱却するために『ホンモノ』とならなければならないとは何たる皮肉。しかし、それを乗り越えなければ、その望みは叶えられない。


  化物から抜け出すために、『ホンモノ』になるという決断に迫られる甘木夏であった。

 

  「……そろそろか」


  不意に脱力する。魔力切れだ。


  全身を襲う酷い倦怠感や疲労感により、その身体は崩れる。


  時点で、彼の魔装の残り時間は20秒ほど残っていたが、『魔装の真骨頂』で『炎の刻』を発動したことにより、魔力の消費を加速。魔装は3分よりも少し早く解除されるという結果に終わった。


  「ま、まぁ……終わりよければ全てよし……少し寝よ」


  こうして、激しい死闘は甘木夏の勝利を持って幕を閉じたのだった。


  静寂の中で甘木夏は暫しの休息。その目はゆっくりと瞑られた。

 

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