表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やがて、僕たち勇者は殺しあう  作者: いろはに
第1章 竜装・火竜篇
22/38

8話 魔物と魔人の間のモノ

  町を出た風流楓は、まずハラヤ村を目指し歩き始める。


  町を出で初めに感じたことは視界が真っ暗で何も見えず目的地まで辿り着けるのか、という不安だった。


  平原は真っ暗で何も見えない。街灯もなければ、すれ違う車もない。それは当たり前のことだ。何せ、ここは異世界なのだから。


  街灯や車のヘッドライトを光源にして歩き進めるのには無理がある、と悟った風流楓は月明かりを光源に足を進めた。


  また、道は整備されておらず、歩き辛い。内心、所詮は異世界ですね、と異世界のインフラ事情を小馬鹿にするほど真っ暗で歩きにくかった。


  ただ、目指す方向へ足を進めていくにつれてだんだんと目も慣れていく。人間の順応性の高さを思い知りながら風流楓は、暗闇が支配している平原をただひたすら歩き続けた。


  時折、魔物の群れの赤い眼光がこちらをじっと見ているのを感じる。が、そんなものにいちいち構っていられない。風流楓にはやらなければならないことがあるのだから。


  小一時間くらい歩き続けた頃だろうか、何やら村らしき一帯を発見した。


  真っ暗でよく見えないが、やはり村ということもありそれなりに質素というかなんというか。スターメンの町と見比べると差は一目瞭然だった。だが、思っていた村のイメージとは違う。もっとこう、集落的なものを想像していたが、どちらかというと小さな町という印象を受けた。

 

  風流楓は迷わず村へ足を踏み入れる。

  辺りを見渡すとあちらこちらで争った形跡が見受けられた。魔人の襲撃を受けた跡なのだろう。


  思わず呆気にとられる。


  「…………何ですかこれ……」


  まぁ、無理もない。何せ、普段の日常とはかけ離れているほど異様な光景だったのだから。風流楓にとってこの光景は、まさに非日常を彷彿とさせるものだ。自ずと手からは嫌な汗が滲み出る。


  怖い。


  素直にそう思った。


  だが、同時に闘志も滾っていた。

  自分が何処までやれるのか、また自分の力は本物なのか、と風流楓の中の何かが奮い起つ。

 

  密かに笑みを浮かべながらさらに進む。


  そんな時だ。

 

  「おいぃ……」


  背後からの気配と共にかけられたのはねっとりとした耳心地の悪い低い声。


  風流楓は反射的に声の聞こえた方へ向きを変え、正面で迎え討つ体勢にはいる。何が起こるかわからない、と警戒の意味を込めそのまま後ずさる。万が一のためだ。相手との距離を置くことにより、逃げ道を確保する。


  風流楓の瞬時に発揮されたその判断力は優れていた。

 

  「だ、誰ですか⁉︎」


  「むふふふんんん。まだこの村にニンゲンがいだとは……」


  暗闇から姿を現したのは、醜い化け物だった。


  緑の体毛に全身を覆われた2メートルはある巨体。頭部の横辺りから生える汚く捩れた二本の角。豚のような鼻と大きな牙が見える口からは汚らしい体液が滴っている。ジュルリ、と不快な音を立て、風流楓を舐め回すような目で見るそいつは、まさに化け物だった。

 

  「おいぃ、ニンゲン。おでと一緒にこいぃ……。むふふふんんん」


  汚い笑い声を上げ、手に持たれたサーベルらしき刃物を振り回す。まさに奇行的行動だった。


  風流楓は化け物の仕草、笑い声、姿に嫌な顔をしながら問う。


  「あなたが魔人……ですか……?」


  「むふふふんんん。違うぞおぉ」


  「じゃあ、何なんですか」


  「わかだないいぃ」


  まるで子供だ。子供と会話をしていると感じた風流楓。言ってしまえば知性というものがないのだろう。そうなれば子供以下となる。


  ──ああ、何とも醜い。


  中途半端な知性だけを与えられて生み出された産物なのだろう。生み出したのは魔人かはたまた魔王か知る由もないが。


  この化け物は一体何なのか──そんな問いに対し風流楓はこう結論付ける。


  「大方、魔物と魔人の間のモノ……と言ったところでしょうか」


  だが、これは憶測でしかない。見た目と知性。それらを照らし合わせ導き出した風流楓の憶測でしかない。


  ともあれ、この化け物が何だろうが風流楓のやることは変わらない。何せ、目の前に立ちはだかる敵なのだから。


  「ま、何でもいいです。さ、私が葬ってあげましょう」


  言いながら、風流楓の右手に現れたのは一本の刀だった。


  魔装をするまでもない。と言うか、こんなところで魔装なんて行ったら魔力切れでギルカウスの時みたくなってしまう。そう思った風流楓は魔力の消費の少ない武器の召喚のみを行った。武器の召喚のみならば、魔力切れで動けなくなることもない。比較的、今の風流楓は冷静だった。


  とは言え、果たして魔装をしていないノーマルな状態で勝てるのか──そんな疑問もあったものの、この世界で甘木夏と出会った頃遭遇したあの狼のような魔物たちをこの刀一本で葬り去ったことを思い出し、風流楓は自信に滾っていた。だが、今風流楓の目の前にいるのは正真正銘の化け物だ。正直、上手くやれるのか。

 

  「おいぃ……。おでと一緒にこいぃ……。カオセルス様がお待ちだあぁ」


  「カオセルス様……? ああ、魔人のことですか。ま、普通にそいつの場所へ案内してくれるだけなら大人しく付いて行きますが、そうはいかないでしょ?」


  「むふふふんんん。おで、お前のこどすこじ齧りだいぃ……。むふふふんんん。おで、正直者おぉぉぉぉ!」


  耳にへばりつくような汚い声で叫びあげた化け物は、まるで無邪気な子供のようにはしゃぎ、サーベルを振り回した。


  ブンブン、と振り回されるサーベルに対して少し危機感を覚えた風流楓は化け物からさらに距離を置く。


  そして、はぁ……と深いため息を漏らす。

  あまりの醜さに憐れみすら覚えるほどだった。


  「気色悪いですね、全く。もういいです。死んでください」


  不快で不快で堪らないのだろう、風流楓は冷酷な言葉を化け物に浴びせた。


  それに対して、化け物はギョッとした目つきで、


  「なんでぞんなごどいう!? おで、おごっだぞおぉぉ!」


  鼻息を荒くし声を上げ、興奮し怒り狂うようにして、ジタバタと足を踏んだ。


  化け物のにも罵倒を理解をする、という知性があったようだ。やはり、そこらの動物や魔物とは違う。その事実に風流楓は、やや危機感を覚える。


  しかし、そんな時。


  早めに片をつけようと意気込んだ時だった。

  化け物の右肩が上がる。それは何を意味するのか──そんな思考すら追いつかず、化け物の右腕は振り下ろされた。


  「!?」


  あまりにも唐突すぎる出来事だったため、その場で立ち尽くす風流楓。


  が、やがて理解する。クルクルと回転しながら──そうそれはまるでブーメランの如く。化け物の右手から放たれこちらへ向かってきたのはサーベルだった。


  ──あ、死ぬ。


  刹那の中で、その文字だけが脳裏に浮かんだ。


  ところが、ブーメランサーベルは何事もなかったかのように風流楓の横の地面に突き刺さる。


  間一髪の危機から脱し、安堵する風流楓。脱力と共に襲ってきたのは酷い疲労だった。思わず、握られた刀を離しそうになる。

 

  化け物がノーコンだったので良かったものの、もし化け物が正確に風流楓の命を獲りにきていたら、風流楓はその場で血飛沫を上げ確実に死んでいただろう。


  敵が馬鹿で良かった──素直にそう思った風流楓。


  だが、反面、プライドを傷つけられたのもまた事実。

  もし、敵が馬鹿ではなかったら。もし、敵の攻撃が正確だったら。もし、自分に運がなければ。そう考えると肝っ玉を冷やすと同時に何処にぶつければいいのかわからない怒りがフツフツと煮え滾る。


  何より、甘木夏やユーリに豪語しといてこの為体だ。何も出来なかったし、一瞬、死を悟ってしまった。それはつまり、こんなチンケなモノに負けを認めたのと同じことだ。


  そして、その中で聞こえてくる化け物の笑い声。


  「むふふふんんん」


  ──知性もないただの化け物のくせに。馬鹿にしているのか。馬鹿にしているのか。馬鹿にしているのか。馬鹿にしているのか。


  風流楓のイライラゲージはMAXを振り切ろうとしていた。このままでは、自制できなくなってしまうかもしれない。

 

  馬鹿にされ、何も出来ない自分がいて──。


  「ああ、もう──」


  風流楓の中で何かが吹っ切れた瞬間だった。

  同時に風流楓は初期の猟奇的感覚を思い出す。


  人を殺さなければ達成されることのない神様からの使命を受けこの世界にやって来た風流楓。こんな言い方は変なのだが、当時、殺しに対してかなり意気込んでいた。それはもう、まるでゲームをやるような感覚で。正直、ワクワクしていた。それに加えて、凄まじい力。思わず顔がにやけてしまうほどだった。


  自分はこの世界の主人公である──そんな錯覚に陥るのも無理はなかった。


  そんな中、偶然にも発見した甘木夏と魔物達。それはもう、力が疼くような感覚に襲われ、魔物を殺した。快感だった。そして、標的は甘木夏へと変更される。正直、殺したい、と心底思った。血を浴びたかった。だが、甘木夏と一緒にいると何故かそんな感覚も次第に薄れていき──現在に至る。


  しかし、今の風流楓は境地や化け物からの無意識な侮蔑を受け、以前の感覚を取り戻そうとしていた。

  いや、もうすでに取り戻していた。


  「はぁ──」


  刀は何のためにあるのか──それは血を咲かせるためである。


  「死んでください」


  次の瞬間。


  風流楓は瞬時に化け物へ詰め寄る。そして握られた刀は大きく振りかぶられ、化け物の右肩の付け根の部分を直撃した。根元からごっそりとエグるように刃を化け物の右肩に食い込ませる。


  「うぎゃぎゃぎゃあああぁぁぁぁ!」


  痛みで奇声を発する化け物に目もくれず風流楓は、無心に化け物の右肩を切り落とそうとする。分厚い肉を包丁で切るように。


  やがて、肉は切り落とされる。咲き乱れるの紫色の血。化け物の特有の血の色だった。


  「いだいいいぃぃぃいだいいいぃぃぃ!」


  化け物は切られた右肩を押さえつけ、涙混じりの奇声を上げもがき苦しむ。哀れな姿だった。


  そんなことになりふり構わず、風流楓は次の工程へ。

  風流楓は一旦化け物から距離を置き、再び化け物へと詰め寄る。今度は左肩を標的に、刀を振り下ろす。

 

  「楽には死なせませんよ」


  グシャッと嫌な肉に刃が刺さる音。

  それに伴い発せられる化け物の奇声。


  まさに地獄絵図だった。

  風流楓の刀は徐々にエスカレートして行き、次は右脚。次は左脚へと標的を変え、やがては化け物の四肢を全て奪う結果となる。その間にも化け物の奇声は途絶えることなく、化け物はただただひたすらもがき苦しんだ。


  そして、最後血に染まる刀が向いた先は化け物の首である。


  「あなたには感謝しています。私にこの感覚を取り戻させてくれたのですから。いやーそれにしても気持ちよくて気持ちよくて。これが本来の非日常ですよね。ありがとうございます。醜い化け物さん」


  「………………うぎゅ……」

 

  化け物の鳴きが止むのにそう時間はかからなかった。

 

  咲き乱れる紫色のの花。

  四肢と首を失った化け物の胴体はまるで一つのオブジェのように芸術的感性を誘発させる完全なるモノと化していた。

 

  思わず自分の作品につい見惚れる風流楓。この産物は風流楓の力の証であるのだからそれも致し方ない。


  化け物と風流楓の戦いは風流楓の一方的な残虐行為に終わったのだった。

 



 

 


 


 


 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ