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12話 クエスト失敗

  なんやかんやで逃げ切れた僕たちは、イストリア平原を抜け、スターメンへとたどり着いた。


  人間の生存本能ってすごいよね。ガチればあんな怪物からでも逃げれるだなんて。この件に関して僕は一生誇っていこうと思う。


  どっとした疲れを感じながら、僕たちは例のおっさんの店へと足を運んだ。

  正直、このままトンズラしたかったが、風流楓はそれを断固拒否。渋々、再びあの店の暖簾をくぐることに。

 

  クエストをまともにこなせない無能冒険者のご来店である。

  店内には複数の客のグループがディナーを楽しんでいるようで。老若男女問わず、人気の店なんだなぁ、と感心した。


  だが、僕たちはそのディナーをぶち壊す。

  入店後、おっさんの顔を見つけてからいきなり、


  「うぇぇぇん怖かったよぉ〜」


  「グスン……グスン……」


  僕と風流楓は店内でそれそれはもう大泣きした。だって怖かったからな。実際。身の危険を感じたからな。


  向けられる不審な視線。それは客たちからによるもので、何やらヒソヒソと話している。大方、ヤバい奴がきたぞ! キチ◯イだ! みたいな感じなのだろう。


  だが、僕たちは気にしない。何せ、


  「お、落ち着け。クエスト失敗したんだな……。でも、よ、よくやってくれたよ君たちは。おかげでギルカウス一頭分手に入った。それだけで十分さ!お疲れ!」


  そうは言うものの、笑顔は上っ面で若干、僕たちの予想外の反応におっさんは顔を引きつらせる。てか、若干どころではなく結構引いていた。


  でも、作戦通りである。

  クエストを失敗してしまい無銭飲食の件を咎められるのでは、と帰り道思い始めた僕たちは、入店後いきなり泣きわめくことによりインパクトを与え、無銭飲食の件を忘れさせようという作戦を話し合いで決めていた。


  今のでインパクトは十分なはず。


  無銭飲食をチャラにしてもらわなければ意味がない。それこそ、牢屋にぶち込まれるのがオチだ。それだけは絶対に避けなければ。


  とりあえず、泣きわめけば問題なし。他人からどう思われようがどうでもいい。牢屋にぶち込まれさえしなければ。


  「ほんっっとに怖かったよぉ〜しぬがとおもったよぉ〜」


  十八にもなる男がおっさんの前で泣きじゃくる姿はまさに恐怖!圧巻せよ!

 

  「グスン……グスン……」


  風流楓がグスングスンと可愛らしく泣いてる反面、僕の絶叫が店内に響き渡る。


  おっさんは周りの従業員やお客さんからの視線でおどおどしていた。


  よしいいぞ! 効いている!効いているぞこれ!

  あとは同情さえしてもらえばこっちのもの!おっさんが落ちるのも時間の問題だ!


  ってか、傍目から見ればコレ超カオスな光景だな……。


  でも、これは僕たちの今後に関わってくる重要なイベントだ。ここで作戦に失敗してしまえば、ジエンド。異世界ライフとはおさらばで、独房ライフが始まってしまう。


  ここは強引に。


  「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! もうやだよ! なんで、なんであんなことに……! 思い出しただけでも……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


  「お、落ち着けって。君たちの働きは十分だった! 勇敢であったぞ! よし、無銭飲食の件はチャラだ! クエストはギルカウス二頭討伐だったが、一頭だけでも十分だ! むしろ、一頭討伐出来ただけでも誇れ!」


  「本当……?」


  「ああ! 本当さ! ギルカウスを一頭討伐したんだろ? なら胸を張れ! 男ならドンと胸を張れ!」


  おっさん優しい……。

  掘られたい……。

  ま、嘘なんだがな!


  「あ、そうッスか。わかりました。なら、無銭飲食の件はこれでチャラっていうことでいいんッスね。よかったな風流」


  「はい、よかったです! じゃあ、報酬として晩御飯でもご馳走になりましょうか」


  自分で言うのも変だが、マジでカスだな。


 


  ★




  おっさんの店の賑わいはピークを迎える。

  バタバタと忙しそうなホールの従業員たち。

  厨房では汗を滲ませながら死に物狂いで調理をしているおっさん。なんかかっけぇ……。


  傍ら、客たちは木製のジョッキを片手に、目の前のテーブルに出される料理を堪能。何やら談笑していて楽しそうだった。


  「お待たせ致しました。こちら、Sスペシャルステーキセットでございます」


  そんな中、僕たちの席に例のセットが並べられた。

 

  「おお、これがギルカウスの肉……」


  「美味しそうですね……」


  表面の程よい焼き色。切られた肉の隙間から垣間見えるのは、まるで宝石のような輝きの赤色。肉汁と相まって、輝きが輝きを呼ぶ。


  風流楓の言う通り、本当に美味しそう……ジュルリ……。

 

  「というか、Sってなんだよ」


  僕は木製のジョッキを片手に、Sスペシャルステーキセットの頭についている『S』という言葉に違和感を覚える。


  本来のメニューにはただのスペシャルステーキセットとしか記載されていないのだが。


  「恐らく、最高級部位を提供してくださっているんでしょう。優しいですね、あのおじ様」


  「ああ、そう言うことか」


  つまり、こんな感じか。スーパースペシャルステーキセット、と。略してSSSS。うわぁ、なんかダセェや。


  ともあれ、このセットが最高級の肉で作られた品なのは間違いない。あのおっさんには色々と迷惑をかけて何だか悪いな。今は厨房で忙しそうだから後でお礼と共に謝罪をしなければ。


  「ま、何はともあれ、苦難を乗り越えてのご褒美! 頂こうか!」


  「ええ! そうですね!」


  「では」

 

  僕の掛け声と共に。


  「「頂きます!」」


  最高のお疲れ様会が開かれたのだった。


  僕と風流楓は夜遅くまでこの店で飲み明かした。

 


 




 


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