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10話 ギルカウス二頭を討伐せよ! 一頭目

  スターメンの東に位置する平原──イストリア平原。


  緑が広がる広大な地に僕たちはとある用があってやってきていた。


  クエスト──ギルカウス二頭を討伐せよ。


  ひょんなことから僕たちはこのクエストを請け負ってしまったのだが……。


  「ああーもう! 疲れた! 歩き疲れたよ! 帰らせろぉぉぉ!」


  「まだグチグチ言っているんですか。いい加減にしてください」


  帰りたい……。てか死にたくない……。


  「だってさ、しょうがないじゃん。確かに無銭飲食は僕たちが悪かったけれども、こんなの明らかにあのクソおっさんの利益にしかなんないじゃん。高々、ランチ食い逃げしようとしただけだよ? 高々、一時間働けば得れる程度の食い逃げだよ? おかしいだろ! な!」


  「……確かに言われてみればそうですけれど」


  「だろ? おかしいだろ? ちょ、もう帰ろうぜ」


  「いや、でも、もう請け負ってしまいましたし」


  「んなもん、バックれればいいんだよ。舐めんなよこちとらS級バックラー目指してんだよ」


  「なんですかS級バックラーって……」


  風流楓は呆れていた。

  まぁ、無理もない。散々、道中に僕が駄々をこねまくってたからな。

 

  「そもそも、だいたい夏さんが無銭飲食しようなんて言いださなければ、こんなことにはならなかったはずなんですが」


  「ほーらまた僕のせいにする! もういいよ、聞き飽きたよ。もうさ、ほら、そうやって人に罪をなすりつけんの止めてくんない? お前だって賛同してたじゃん。腹をくくりました、とか言ってたじゃん」


  「……うぅ。確かにそうですけれど」


  僕は何も間違ったこと言ってないよな? な?

  やってることは間違いそのものだったけれども。


  「……って、いくら嘆いても仕方ないですし。ほら、もう! つべこべ言わずにさっさと行きますよ!」


  僕は引きずられながらさらに進んだ。




  ★




  「ギュルルルルウォォォ!」


  ギルカウス一頭が僕たちの前に現れた!


  なんというか、第一印象はただのデカい牛だった。しかし、魔物ということでやはりそれなりの大きさでそれなりの不気味さ。額にはぶっとい角が一本。真っ黒な毛覆われた図体。


  ちょっとこれは……。

  額から変な汗が噴き出す。本能的に完全拒絶。

  死にたくない!

 

  「夏さん、準備はいいですか⁉︎」


  「お、おう、僕はいつでもオールオッケーだぜ!ぜ?」


  「では、行きます!」


  そう言って、風流楓は目を閉じ集中した。

  例のアレか。

 

  ってか、察しろよ。僕の変な汗を察しろよ。顔色を伺えよ。明らかに引きつってんだろうが。僕は行きたくねーよ!


  僕の悲痛の心の叫びとは裏腹に風流楓は着々と準備する。まぁ、頼もしいことなのだが。


  「鬼装──赤鬼」


  風流楓は赤い光に包まれ、やがて姿を現す。

  結い上げられた髪。赤い着物のような鎧に身を包んだ風流楓。その手にはクッと刀が握られていた。


  風流楓は横目で、


  「さ、夏さん、あなたもお願いします。相手の技量が見えない以上、下手に出たらやられてしまいます」


  と言われてもなぁ……。

  僕にはそんなのは無理! 無理なものは無理!


  しかし、そんなことは言えず……。

  ここはなんとなして誤魔化す。


  「……馬鹿だろお前。その力は三分しか使えないんだぞ。もし、ここで僕もその力を使ってしまったら残りの一頭はどうなる? 誰が倒すんだよ」


  「言われてみれば、確かに……! さすがですね夏さん!」


  グッジョブみたいに言ってきたが、普通に考えたら当たり前のことを僕は言ったまでなんだが。こいつ、マジもんの馬鹿なのか?


  「ということで任せたぜ!」


  「はい! 任されました!」


  風流楓はすぐさま、ギルカウスを見据える。


  戦闘の時の風流楓はガラッと雰囲気を変え、刀を構える時の姿はまるで、一人の武者の如く。


  また、ギルカウスも風流楓という獲物を目で捉え、咆哮する。


  「ギュルルルルウォォォォォォォ!」


  一人と一匹の間には見えなくも、そこには激しい殺気のぶつかり合いがあった。


  やはり、相手も魔物。人ひとり一瞬で喰い殺してしまいそうな気迫を感じた。


  だが、風流楓もまた一人の武人。

 

  「ふふふ……」


  不敵な笑みと共に、お前はもう死んでいる、という何処かで聞いたことのあるようなフレーズが込められた瞳でギルカウスを哀れんでいた。


  「では──」


  それは刹那に。

  その掛け声と共に。


  「ふん」


  片がついた。


  風流楓が刀を鞘に収めると、ギルカウスは鳴き声も上げずに崩れ去る。


  滝のように噴き出す血の雨。

  先ほどまで生きていたものがいとも容易く、無残な骸へ。

  命の尊さを考えさせられる一瞬だった。


  風流楓は額に返り着いた血を拭いながら、


  「終わりましたよ」


  そう言って、笑顔を見せた。

  だが、また僕はそれが恐ろしくて恐ろしくて。

  神様から貰った力に憧れを感じると同時に、それを使いこなす風流楓を蔑んだ。

 

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