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プロローグ

  「あ、やっと目を覚ましたみたいだね」


  目を覚ました先に居たのは、一人の美少女だった。


  質素な白のワンピース姿の美少女は、桃色にも似た白く長い髪を風に靡かせながら、綺麗なブルーの瞳で僕を哀れんでいた。


  「残念ながら、キミたちの居た世界はこの通り滅んでしまいました」


  美少女はまるで、大袈裟な演技のように手を広げてみせた。


  ──この通り滅んでしまいました。

 

  とは一体、どの通り滅んでしまったのだろうか。


  なんて疑問もすぐに払われる。


  刹那、真っ黒な世界が一変する。


  美少女を背景に、僕の目に映るのは荒廃してしまった世界だった。


  赤く焼けた空の下で、今にでも崩れ果てそうなビル群。重々しい雰囲気の中、裂けた大地の上で無造作に散らばっている自動車。所謂、SF映画で見たような光景が目の前に広がっていた。


  「何だ……これ……」


  言葉が出ないとはこのようなことなのだろうか、僕はあまりの光景にただ呆然と立ち尽くし、脱力した。


  「だから、キミたちの居た世界は滅んでしまったんだよ」


  「滅んだ……? 何を訳のわからないことを言って……じゃあ、ここは何処かなんだよ。何で、僕は今こうして生きているんだよ」


  「人間ってやつは愚かだね」


  美少女は桃色にも似た白の髪を後ろへ流しながら、まるでゴミを見るかのような目で僕を侮蔑した。

 

  「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったね。私は神。神様よ。敬いなさい、この愚民」


  少女は自分のことを神様だと名乗った。

  神様。それはつまり、この世で最も上位と言われている存在。信じる者もいれば、僕のような信じない者もいる言わば偶像。その偶像を自ら名乗る愚かな少女が僕の目の前にいた。自称神様である。


  「何を言っているのか僕にはさっぱりだ」


  「本当、その通りよ」


  すると、唐突に後ろから声が聞こえた。

  振り返るとそこには、僕と同じくらいの歳の制服姿の三人の少女がいた。


  赤髪の少女と黒髪の少女、銀髪の少女の三人。


  先程の声の主はその内の一人の赤髪の少女のようだった。腕を組み、冷静にその場で佇んでいる。

 

  「さっきから話を聞いてみれば、世界が滅んだ? 神様? 何を馬鹿みたいなことを言ってんのよ」


  「はぁ」

 

  短く深いため息をつく自称神様。

  そして、自称神様は無慈悲にも言い放つ。


  「人間は馬鹿ばっかりだね。まぁ、混乱するのも無理ないけど。だって、一瞬だったから。何千年かけて積み上げてきた文明が一瞬で滅んだんだもん。そりゃあ、すぐに受け入れるなんて人間には無理だよね」


  「言わせておけば……!」


  イライラした様子で赤髪の少女は、自称神様に対してクッと睨みつける。


  これでは話が進まないと踏んだ自称神様は、赤髪の少女を無視して軽くあしらう。


  「さて。しのごの言わず、私の言うことをよく聞いてね。キミたちの世界は滅んでしまいました。何故滅んだのか、なんて野暮なことはこの際面倒臭いから省くけど、もちろん滅んだ際キミたちも死んでしまいました」


  自称神様な事務的に淡々と語る。


  「辛いよね。悲しいよね。悔しいよね。その若さからして、まだキミたちには未練があるでしょ? やり残したことが沢山あるでしょ? そこで、この私神様はキミたちにチャンス与えようと思うの」


  「チャンス?」


  「うん。チャンス。端的に言うけど、今から力を与えるからそれで異世界の魔王を倒してきて」


  軽い口調で言う神様に、僕と背後の三人の少女は、は? という顔をして互いを見合った。


  すると、自称神様は一間置き、ずかずかとこちらへ歩み寄って来る。

  と次の瞬間、自称神様は何を思ってそんなことをしたのだろうか、まずは赤髪の少女に物凄く肉薄した。


  「な、何なのよ……気持ち悪い……」


  赤髪の少女は頬を染め肉薄してきた自称神様から目を逸らす。


 しかし、自称神様は気にしない。


  「並木なみき流花るか


  言いながら、神様は赤髪の少女の名であろうものを呟く。


  瞬間。


  赤髪の少女──並木流花の左頬に軽くキスをした。

  何という光景なのだろうか。

  並木流花は目を見開き、顔全体を真っ赤に染める。


  「なっ、ななな何すんのよ!」


  並木流花の猛抗議に自称神様は、動じず軽く微笑みかける。自称神様のその対応に並木流花はたじたじだった。


  次に、自称神様は並木流花の左にいる黒髪の少女の目の前に移動する。


風流ふうりゅうかえで


  そう言うと、例のように自称神様は黒髪の少女──風流楓の左頬にキスをした。

  風流楓もまた少しだけ頬を赤く染める。


「……何ですか、いきなり……」


  ただそれ以上のことは言えずに風流楓は硬直した。


  と、次は風流楓の左にいる銀髪の少女の元へ。


  「天雲あまぐも柑奈かんな


  銀髪の少女──天雲柑奈はもうこれまでの流れ通り自分の順番がきたことを察して頬を赤く染めながら目を瞑り、神様からの左頬へのキスを受け入れた。


「…………恥ずかしいわね」


  うわぁ……。なんか、物凄くいけない光景を見ている気がして後ろめたい。いや、素晴らしいけれども。

  と、この流れからして最後は僕のところへ来るんじゃないのか……? だとしたら、やばいよ? 耐えきれないよ?

 

  んで。


  「甘木あまぎなつ


  自称神様は僕の名を呼び、もうそこにいた。

  童貞よろしく僕は慌てふためく。


  「あ、いや、ちょ、え?」


  「ふふふ」


  いたずらに微笑む自称神様。まじまじよく見てみると、やはりそこには自称神様を名乗るだけの美貌が待っていた。白くきめ細やかな肌。白のワンピース姿ということもあり、そこから垣間見えるのは大き過ぎず小さ過ぎずの胸の谷間。そして、僕に向けられるのは妙にエロティックな唇である。


  ゴクリ。


  頬にキスをされるとは言え、これはちょっと──。


  それは刹那に過ぎ去る。


  「…………え」


  本来通りならば、それは頬にされるはずだった。

 

  「……ふふふ。これは私からのサービスだよ」


  自称神様からのサービス。

  それは頬ではなく、唇へのキスだった。


  「……な、なななな何をしてんだよ!」


  他の三人の少女たちの痛々しい刺さるような視線が見なくても感じる。

  何てことをしてくれたんだこの自称神様は。おかしいだろ。TPOを考えて行動してほしい。いや、嬉しいけれども。


  自称神様は僕の反応にも応えず、今度はくるりと背を向け僕たちから距離を置く。そして、淡々と話を進めていく。

 

  「さて、魔力解放の儀はこれで終わりました。これは私からのささやかなプレゼントです」


  キスをする必要があったのだろうか、という疑問に誰一人突っ込まず、ただキスをされた頬や、僕の場合唇を摩りながら自称神様を見ていた。

  何だろう。僕たちはもう自称神様には逆らえない、そんな気がした。自称神様というのもおこがましく、無礼である気がした。何せ、キスをされたことにより僕は彼女が紛うことなき本物の神様なのかもしれないと思い始めたのだから。


  「さ、神に選ばれし勇者たちよ。キミたちの力で異世界の魔王を打ち倒すのです。さすれば、このどうしようもない崩壊してしまった世界を修復してみせましょう。さらにその世界への復帰も認めましょう。そして、もう一つ。魔王を倒した暁には一つだけ何でも好きな願いを叶える権利を与えましょう」


  自称神様は僕と三人の少女たちに手を差し伸べた。

  神だからこその救いの手なのだろうか。

  だが、少なくとも僕はまだ世界が滅んだだの自分が死んだだの自覚がない。あまりにも非現実過ぎて話についていけないのも事実だ。

  ただ、神様の言うことに対してNOとは言えず、その救いの手に己の手をかけそうになる。

 

  「だだし」


  言いながら、神様は不敵な笑みを浮かべ、


  「元に戻った世界に帰れる者は一人だけ、それに願いを叶える権利を与えることの出来る者も一人だけ」


  神様は耳を疑うようなことを口にした。

  ──元に戻った世界に帰れる者は一人だけ。

  ──願いを叶える権利を与えることの出来る者も一人だけ。

  勇者として選ばれた者は四人いる。

  僕、甘木夏。

  並木流花。

  風流楓。

  天雲柑奈。

 

  「そこで、魔王にとどめを刺した者に好きな願いを叶える権利と元に戻った世界に帰れる権利を与えます」


  そう、それは何とも意地悪で。


  「道中はパーティーを組むなり、仲を深め、友情、はたまた恋愛感情を芽生えさせても構いません。男女問わずそれは好きにすればいい。何をしたって自由です。逆に言えば、相手を利用することだって良い。騙し、陥れ、殺意を芽生えさせても構いません。互いに殺しあうことだって許しましょう」


  何とも嫌らしくて。


  「けれど、魔王にとどめを刺せなかった残りの三人は」


  何とも理不尽で。


  「存在自体を消し去ります。あの世やこの世といった世界そのものから消し去ります。それと魔王を倒す道中に死ねばそこで終わり。その場合も存在を消し去ります」


  何とも酷く無意味なものだった。


  「お前は何を言って……」


  僕が言いかけると神様は間髪入れず、


  「誰に向かってお前って言ってるのキミは。もっと敬いなさいよ馬鹿人間の甘木くん。まぁ、それは置いといて、ゲームだよ。ゲーム。言ったでしょ。キミたちにチャンスを与えるって。しかし、あくまでもそれはただのチャンス。神は人間には平等だからね。数多もある世界の中でキミたちの世界だけを贔屓なんて出来ないよ。更に言えば、数多もいる人間の中でキミたちだけを贔屓なんて出来ないよ。だからこそのゲーム。魔王を一番早く倒した方が勝ち、というゲーム。私なりに趣向を凝らしてみたの」


  有無を言わせずの態度で神様は言った。


  「さて、説明したことだしそろそろキミたちには旅立ってもらうね」


  言った瞬間、僕たち四人の周りが白く発光した。

  僕たちはそれを拒絶することすらままならず、ただ光に包まれる。


  「あ、今から転送される先はランダムだから。誰が魔王を先に倒すのか……。健闘を祈るよ!」


  僕たちが淡い光に包まれていく中、神様は最後の言葉と美しい笑顔を僕たちに見せる。

  その見惚れてしまいそうな笑顔もやがて淡い光に遮られ。


  目の前がホワイトアウトした。



 

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