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夏休みのはじまり・自然が多い都内・人口の減少

人類の大部分は、中東と北アフリカに集中しているが、中世の暗黒時代を思わせるような文明の退化がつづく。


 先進国諸国では、貧困も犯罪も戦争もない社会が200年も続いた。


 都内の人口が急激に減り、自然が帰ってきた。


 戸松ほむらは、公立中学校の夏休みが8月直前から始まる。ある地理の教師の失言により、臨時休校となった。その分、夏休みは短くなった。


 多摩川、かつては汚水だらけで魚がとれても食べられない。でも、東京都内が過疎化して、泳げるまでに水がきれいになった。当然、魚を釣って食べることも可能。周囲は廃墟だらけ。都内の繁栄の面影がない。東京は、小さい街になり横田米軍基地があった場所の周辺にだけ人々が住む。それ以外のところは広い森林がある。

「今日から夏休み」

 体育館で、地理の富士宮先生が丸坊主のまま、これからカムチャッカ半島での石器時代サバイバルキャンプに行く。

「みなさん。不良になると石器時代サバイバルキャンプに参加する義務が生じます。市内から数名の不良教師と不良少年少女たちと一緒にキャンプに参加します」

 教師になると、下手なことは言えない。暴言など言えば、即刻、カムチャッカ半島いき。

「戸松さん。ごめんなさい。変なことを言って」

 私は全然覚えていない。たしかに幸福物質を精製した薬を飲んで、臨死体験をしたと思う。でも、2日間、私はロボットやアンドロイドと楽しく過ごせた。


 23世紀、中東から輸入されるものは資源よりも、人間の脳からとれる麻薬や幸福物質である。それを上手に精製すれば、うつ病の特効薬になるし、ストレスを軽減できる薬が作れる。23世紀になると人体の謎が増える。人体こそ新しい人類のフロンティア。脳から猛烈な勢いで、快楽物質、幸福物質、麻薬、覚せい剤の原料が噴水のように吹き出す。そのような物質が手に入る。そのためには生きたまま麻酔なしで人間の脳を取り出さなければならない。


 中東や北アフリカでは人権という概念がない。一部のアジアの国、ユーラシア大陸の奥地でも、まだ人権という概念がない。先進国以外のところから、多くの新薬が輸入される。



 『生きた人間の脳を取り出す=殺人』なので、国際条約としては禁じられているが、国際法は無視された。生きている人間の脳から精製される未知の物質がとれる。人間の脳から噴出するものを人工的に作ることは難しい。それだけ人間の脳には未知の部分が多くある。

「富士宮先生、幸福物質は飲まないのですか。辛くなった時に」

「飲みません」

「でも、不良たちは、脳に影響を与える薬を飲み放題だし」

「それを飲むと廃人になります。自立できなくなり施設で一生を過ごします」

「でも、動画サイトをみたら彼らは人生を謳歌しています」

「それは一時的、いずれ脳が壊れます」

 

 カムチャッカ半島サバイバルキャンプでは、一人だけ気が弱そうな子を入れる。いじめたらレットカードが渡される。レットカードがたくさんあれば更生不可能と言い渡され、中東へ強制移住させる規則がある。宗教戒律で雁字搦め。この社会よりも自由がない。当然、ストレスを軽減させるために頻繁に殺人を行う。精神病質の人間は、最終的には強い敵に負けて殺される。麻酔なしで頭の皮をはがされる。頭蓋骨を切り抜き脳を生きたまま取り出すだろう。


 脳には未知の物質がたくさんある。


 これを上手く生成すれば、新しい薬がつくれる。


 中世の暗黒時代のように電気も水道もない中東では、23世紀の科学でも作れない薬品が簡単に手に入る。そのために殺人事件を起こしてもお咎めなし。既に中東諸国や北アフリカ諸国では警察は存在しない。宗教警察だけしか存在しない。


 娯楽もなにもない社会では、薬物で自分が不幸だという気持ちをなくせる。自分が奴隷にされても、薬物や電脳化で感情をコントロールされる。長時間働いても疲労も眠たさも感じない。

 自分が幸せとか不幸というのは、脳が決める。それを外部からコントロールされたら、どんなにひどい環境でも自分が不幸だと思えない。



 強烈な幸福感を感じると、臨死体験や幽体離脱をする。科学的に解明できない。






 悪人の死後の世界とは、暗黒の場所。悪霊たちが住む世界かもしれない。それを地獄と呼ぶ。キリスト教で言えば永遠の刑罰と呼ぶ。


 幽霊=地獄からの使いと考えられるから、人は幽霊を見ると怖く感じる。


 だから暗闇を恐れる。


 自分が死んだあと天国に行きたい。だから正しい生活をしようと潜在的に考える。それが人格に影響を与える。すなわち良い人になる。


 臨死体験とは肉体から魂が抜け出した状態。


 暗闇につつまれた墓場を歩いても恐ろしく感じないのは、周囲に天使に守られていると考えるから怖くないが、人は神様のことを忘れると死を恐る。


 天使と悪霊の存在、これは永遠の謎。どんなに科学が進歩しても解明できないだろう。それと同じことが幽体離脱。

「脳の側面に電気的な刺激を与えると、自分の体から自分の意識が抜き出す現象を体験します」

「それを幽体離脱というの」

「そうです。でも、数世紀たっても、このことについては謎なんです」

「幽体離脱したことがあるのですか」

「電脳化すれば、あるプログラムを使えば幽体離脱できます。それを体験すれば肉体的な価値観よりも、精神的な価値観に重きを置くようになります。でも、特定の宗教に依存しないから、臨死体験や幽体離脱をしても他の宗教に改宗することはほとんどありません。無神論の人がキリスト教や仏教に改宗したという事例はほとんどありません。ただ人格がとても穏やかで優しくなります」


 私はコンタクトレンズ型のコンピューターを外したことを忘れた。

「あら、コンピューターを目にはめこんでいるのね」

 なんで南先生がそれがコンタクトレンズ状のコンピューターを付けぱなしにしていることを事前に予知した。南先生は、私の瞳を見た。南先生もコンタクトレンズ状のコンピューターをつける。

「ねえ、私もつきあうから」

 そして、目をつぶった。誰かに殺される瞬間が立体的に見える。楽しそうな表情、邪悪な顔つきの若い男性たちに押さえつけられ、刃物を握っている手が見える。そして、これから殺されようとする人が目をつぶると何も見えない。「おちついて。では、この人の過去に遡ります」



 南先生は電脳化しているので、クラウドに保存それている悪人たちの思い出にアクセスした。

「南さん、雪が多いのが見えます。空が曇っています。夜中みたいです。近くに空港が見えます」

「それは学園都市なの」

「そうですか。ガラが悪そうな男の人たちが見えます」

「ねえ、右下に日付が記入しているでしょう」

「いまから30年前と5ヶ月4日前の夜中です」

「それから手にウイスキーのビンを持つわ」

「ビンを持っている人たちの手が見えます」

「何か頭に強い衝撃を受けて。目の前に星のようなものが見える。それから走馬灯が見えます。目の前が真っ暗になりました」

「そう。これが悪人の思い出に、はじめてアクセスしたの」

「これは人間の思い出なの」

「そうなの」


 悪人の心とは、とても愉快なことの連続。いじめをして相手が悲しい顔をすれば快感になる。脳内に強い刺激を受け幸福物質が生成される。

 脳がそれを学習する。そして、気がついたとき、重度の統合失調症になる。幻覚が見えるようになる。そして、さらに快感を求め覚せい剤をもとめるようになる。


 それから空港で飛行機に乗せられるところが見える。とても大きな飛行機。エンジンが4機ある。一度に数百人が乗れる。


 私の目には中東の都市の風景が見える。クラウドから地図の情報がおくられる。右の片隅に中東のどの地域にいるのか解る。


 さらに記憶をすすめると、人を殺そうするところが見える。片手に刃物を持っているのが見える。それを見たスカーフをかぶった女性が怯えている。恐怖でひきつっている。女性や子供を刃物で切り刻もうとするところで突然、映像が見えなくなった。

「やめましょう。この映像を見たらトラウマになるわ」

「そう思うわ。最後はとても怖かった」

「でも、鮮明が画像が見られたわね。コンタクトレンズ状の端末を外して」

「はい」

 私は目薬でコンタクトレンズ状のコンピューターを外して、コンタクトレンズを入れる容器に入れた。


「戸松さん。まだ多感な12歳だから、知らないほうがいいことがたくさんあるの。いまの風景は年齢制限がかかる。自動的に見えなくなるのよ。アクセスを拒否されるの」

「で、南さんは影響されないのですか」

「影響されないわ。悪人の最後はみんな悲惨だから。とても恐ろしいところいいくから。選択を間違えないように」

 私は今後一切、悪いことをしないように自分に言い聞かせた。




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