夢・その2 【詩織目線】
あ、これ・・・・。また夢の中だ。
あたしがいるのは・・・・やっぱり山の中。
おんなじ夢だな、この前見た夢と。
少しだけ遠くに見える森や林、高い山。
冬じゃないね。雪が全然積もってない。
どの木も緑色がすごく濃くて、草木のいい匂いが漂ってくる。
春か夏ぐらいなんだと思う。空気がすごく気持ちいい。
なんか遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。山鳥ってやつなのかな。
多分あたし、また「ハナ」って子になってる。
ハナが見ているもの。それは、開けた場所に並んでいる、いくつもの器。
ツボとかお皿とかお椀とか。
うわ〜、すごい数だ。何百個とか、そういうレベルじゃないね。
なんて言うんだっけ、こういうの。
瀬戸物とか陶器とか陶芸とか、う〜ん・・・・、焼き物でいいんだっけ?
外に木の板で簡単に作った棚があって、そこに並んでる数々の焼き物。
芸術作品とかそういうのとは違う感じがするけど、とにかくいっぱいあるね。
あ!あそこに窯が見えるぞ。窯から煙が上がっている。
もしこれが、例の「翔太」って子の家なら、あの子、多分陶芸家の家の子どもなんだ。
あたし、このたくさんの焼き物を感心しながら見ている。
「へ〜!」とか「すごい!」とか、そんな気分。
ハナから見ると、これってすごく新鮮な風景なんだ。
あたしにとっても、こんな風景は初めての体験。
今きっと、ハナは今のあたしと同じ気持ちでこの風景を眺めているんだ・・・。
ふと、あたしの肩を誰かがたたいた。
あたしが振り返ると、そこには翔太がいた。
やっぱり。この前の夢の流れからいくと、多分そうなるよね。
でも、不思議なことに、この「ハナ」って子は違っていた。
この子、なんか知らないけどびっくりしてる。
「しまった!」とか、「見られた?!」とか、そういう感じ。
なんで?
「お前、どこの子だ?」
「・・・・」
翔太が話しかけてきたけど、ハナは何も言葉を返さない。
え〜?この前みたいに「翔太!」って言ってあげればいいのに。
「お前口がないのか?名前ぐらい言えるだろ?」
ハナがコクンとうなづく。
「んじゃ、言ってみろ。」
「・・・ハナ・・・。花って言うんだ・・・」
あ!わかった!
これ、ハナと翔太が初めて出会った時の場面だ。
この時はまだ、ハナは翔太のことを知らなかったんだ!
へ〜、親切な夢だなぁ。ちゃんとお話がつながってるね。
でもこの子、やっぱり名前が「花」なんだね。
これってやっぱり「学校の怪談」の花子さんなのかなぁ?
「ハナか!ハナ。こんな所で何してるんだ?」
翔太が花に聞いてきた。
花、なんかすごく恥ずかしそうにしてモジモジしてる。きっとシャイなんだな。
あたしにそっくりだo(^▽^)o
「・・・ううん、別に・・。ただ、ここの焼き物見てたんだ・・・」
「ハナ。もしかしてヒマなのか!?」
「ヒマってわけじゃないけど・・・・」
「なんか急ぐことあるのか?」
「ううん・・・。なんにも・・・」
「それじゃ、一緒にあそばないか!?」
翔太があたしの手をつかんだ。森の中に向かって駆けていく2人。
ふうん・・、この2人、こんなふうに出会っていたのか。
それから。
2人はいろんなことをしてあそんでいた。
森の中でかくれんぼしたり、翔太のお父さんの焼き物を手伝ったり、翔太の家でお手玉やけん玉したり。
ちらっとだけど、翔太の家の表札も見えた。
表札には、「景山」って書いてある。
つまり、この子の名前は「景山翔太」っていうわけだね。
花、最初は少し緊張してたみたいだけど、だんだんと翔太に興味を持ち始めてる。
よくわかんないけど、花は少し内気で人にあんまり会いたくない性格みたい。
翔太はちょっと自分中心のところがあるみたいだけど、まぁうちのクラスの男の子たちと変わんないね。
ハナのことは大事にしている。
だって、一緒にいてあたしも楽しいもん。
それで、その2人の気持ちがちょっとずつ溶け始めている。
そうか、こんなふうに花と翔太は仲良くなっていくんだ。
あたしはしばらく、翔太と一緒にいろんなあそびを楽しんだ。
翔太の知っているあそびは、あたしが初めて体験するものばかり。
ずいずいずっころばし。茶壷。陣取り。キックキックトントン。
あたしは自分が花であることも忘れて、いろんなことに挑戦してたんだけど・・・・・。
あ〜あ。また誰かがあたしの鼻つまんじゃったよ・・・。