夢・その1【詩織目線】
あれ、ここどこだろう?
あたし夢を見てるのかな?
あたしの名前、確か「椎名詩織」だよね。
違う?ホントにここどこ?
あたしの目の前に見えているもの。
それは、あたしが見たことがある今までの風景とは全然別のもの。
あたしが今居る場所は・・・・・・・・、どこかの古いお屋敷?民家?
古い8畳ぐらいの畳の部屋に、あたしは座っている。
回りは粗末な土壁。目の前には障子紙でできた扉があって、それが開いて外が見えている。
今は夕方ぐらいなのかな?冷たい空気が部屋の中に流れこんでくる。
でももっと印象的なのは、降り積もった真っ白い雪。今は冬なんだ。
外は一面にどこまでも雪が降り積もっていて、それが夕闇の青に染まり、
そんな今まで見たこともない景色があたしの前に広がっていて・・・・。
なんか寂しい・・・。
あたし、こんな景色は見たことがない。
鳳町にだって雪は降るけど、こんなに積もることなんかないのだ。
雪ってこんなに冷たいものだったんだ。
はるか向こうに見える常緑樹の森。
その緑と青と白の色の流れが、あたしに不思議な感動を運んでくれる・・。
多分、ここはどこかの山奥にある古い民家だと思う。
冬の雪山の中の、誰かが住んでいる家なんだろうね。
あたしはなんとなく自分の服装を見てみた。
なんだ?こりゃ!あたしこんな服持っていたのかな?
白い半そでのシャツ。赤いスカート。
こんな時代遅れの服装、マムに見られたら大笑いされるな。
すると、あたしが見ている縁側の向こうからあたしの居る部屋へ、誰かが走ってくる音が聞こえた。そこに現れたのは1人の男の子。
「ハナ!ここにいたんだ!」
ハナ?それ、あたしの名前?
この男の子、だいたいあたしと同じぐらいの年頃かな?
この古い民家にピッタリの、浴衣みたいな古いカスリの着物着てて、頭は短髪。
いかにも昔のテレビ番組に出てくるような格好して、しかもそれがすごく似合ってる。
「寒くないか?ハナ」
「ううん・・・全然寒くないよ」
えー!?これ、あたしのセリフ!!?勝手にしゃべらないでよ!
でも、この男の子と不思議なあたしの会話は、あたしの意思に関係なく続いてた。
あたしの名前、『ハナ』・・・・?
「そのオレの姉ちゃんの服、ハナに似合ってるけど、でも本当に寒くないか?」
「大丈夫だよ、翔太。こんなピカピカの服着せてもらって、本当に良かったのか?」
「気にするな。姉ちゃんはもう大きくなって、今は都会で暮らしてるんだ。そんな服残ってたって誰も着やしないからな!」
この男の子、名前は翔太っていうのか。あたしとどんな関係なんだろう?
「それよりさ。クリスマスの木、早く見に行こう!こんなに雪も積もったし、クリスマスってやつ、ハナも見たいって言ってただろ?」
「本当か?本当にクリスマスの木が見れるのか!?」
「大丈夫だ!うちの父ちゃんに苗買ってもらって、春のうちから内緒で育ててたって言っただろ?
もうずいぶん大きくなって今が見ごろだ。きっとハナが見たらびっくりするぞ!」
「行く行く!早く見に行こう!」
「待ってろよ。今ミノとカンジキ持ってくるからな」
へぇ〜。こんな昭和初期みたいな頃にも、クリスマスってあったんだ。
いや、違うな。このハナっていう子、本当はクリスマスっていうのがよくわかっていない。
多分クリスマスっていう名前を聞いたことがあるだけで、それにあこがれているだけだ。
だって、今はあたしがハナ。この子の心が、あたしの中に流れこんでくる。
ハナは、この翔太っていう子が大好きだ。
そして、多分この翔太って子も、ハナのことが大好きなんだ。
翔太は男の子だから、このハナって子の前でいい格好をしいたいんだろうな。
こんな時代遅れの場面だから、きっと翔太も背伸びしてハナを喜ばせたいんだ。
クリスマスのことをよく知らなくてもね。
翔太がハナの手を取った。ちょっと子どもにしては荒れてる手だけど、温かくて優しい手だ。
ハナの心の中に、うれしい気持ちが込み上げてくる。
ハナは翔太に引かれて立ち上がると、その後・・・・・。
誰かがあたしの鼻をつまんだ!