本当の姿
「ここの品物を売っ払って金にしようとしたんだが、とんだ邪魔が入ったな。
おいガキ、お前ら大人も一緒なのか?」
詩織は木田島をにらみつけたまま、何も応えない。
しかし詩織が反抗していることに気付いた男は、ニヤリと笑うと、さらに真夢の首を強く締め上げた。
真夢の表情が苦痛の色を濃くする。
「やめて!あたしとマムの2人だけ!他には誰もいないよ!!」
「・・・・ったく、このガキが!最初から素直にいうこと聞きゃいいのによう!」
木田島が、真夢への手を緩めた。
その時、詩織の肩口からティムが飛び出すと、男の顔に飛びかかったが、結局木田島はそれにも冷静に対処して、ティムをつかむと、そのまま足で蹴り上げてしまった。
詩織はグッタリしたティムに駆け寄ると、すぐにティムを抱き起こした。その瞳には強い怒りが込められていたが、今の彼女には一切の抵抗の術は無い。
「なんだ、ノラネコも一緒かよ」
「マムを・・・マムを離してよ!」
「さて、どうしようか・・・」
男は気味の悪い笑みを浮かべると、まるで面白がるように真夢の首を締め上げる。その表情には少しも情のようなものは感じられず、木田島のあからさまな残忍さが伺える。
「誰もいないなら、ここでお前ら2人とも殺してしまってもいいんだが・・・」
すると、木田島は少し奇妙な表情をすると、短い時間だが考え事をした。
そして何かを思いついたらしく、さらに不気味な表情を浮かべると、詩織にこんな提案をしてきた。
「お前らをここでバラしちまうのは簡単だが、少しゲームでもしようか。
もしゲームで勝つことができたら、お前ら2人を逃がしてやろう。」
「ゲーム?」
「ああ。実はな、この近くの山道にレンタカーを隠してあるんだが、さっきお前らがここに入ってきた時、この倉庫のどこかに車のキー(鍵)を落としちまった。
これだけの陶芸品を運ばなきゃならんのだから、どうしても車は要る。
多分このどこかの茶碗やら壷の中に落としたと思うんだが・・・・・・・。
それを一発で見つけることができたら、お前らを逃がしてやろうか」
「え?そんな・・・」
倉庫の中を見回し、詩織は改めて落胆した。
ここにある焼き物の数は、百や二百ではない。
数千もあるこれだけの中から1つを選び出すなど、とてもではないが奇跡でも起きない限りできるはずがない。
「シオリちゃん・・・、マムなら・・・・できるよ・・・」
苦痛に表情を歪めていた真夢が、搾り出すように声を出した。そして真夢の瞳が、みるみる琥珀色に変わっていく。
しかしその様子を目ざとく見ていた木田島が、今度は真夢の頬を強く平手で打った!
「なんだ!?気味悪い。眼が黄色になってんぞ!
てめえじゃねえんだよ!そこの三つ編みのガキにやれって言ってんだよ!!」
そして男は再び詩織をにらみつけると、はき捨てるように叫んだ。
「早くしろ!さっさとやらねえと、このガキ絞め殺すぞ!!」
男の言葉に、意識を失いかけていた真夢が薄っすらと目を開けた。
まだ瞳は琥珀色のまま。そして詩織を見つめると・・・・・。
その時、真夢は小さな驚きに、思わず声を上げそうになっていた。
彼女の目に見えたある真実。それは、真夢が今まで予想もしていなかった出来事で、その不思議な導きに感動し、涙が流れていた。
「シオリちゃん・・・・・。シオリちゃんはきっと、探し物を見つけることができるよ・・・・
だって・・・・。
だって花子さんは・・・。その子はトイレの幽霊なんかじゃ無い。
だってその子は・・・・・・・・・・・・・・・・」
その子は座敷わらしなんだから!