クリスマスイブ
そして、ついに迎えた12月24日。クリスマスイブの朝。
今年は暖冬の傾向のせいか、鳳町ではまだ初雪は観測されていない。
残念ながらホワイトクリスマスとはいかなかったが、それでも町はあのにぎやかな年末商戦の活気に包まれていて、普段はそれほど人通りの多くない商店街でも、今日は書き入れ時とばかりに煌びやかな装飾が多く施されていて、クリスマスツリーやリースが並び、サンタクロースの衣装に身を包んだ宣伝マンたちが多く町中を練り歩いていた。
この日を心待ちにしていたのは、もちろん真夢も同様である。
実は詩織と真夢は、毎年クリスマスイブの日にお互いにプレゼントの交換をするのが恒例で、午前中にデパートで両親から自分のプレゼントと、詩織のためのプレゼントを買ってもらうと、お昼過ぎにそれを携え、急いで詩織の家へ向かっていた。
実はここ数日、真夢の《真実の瞳》の特殊能力は、ある程度彼女の思い通りに使えるようになっている。
真夢がその瞳で詩織を見る度に、彼女の背後に見えるおかっぱの女の子。
実害は無いものの、詩織はその女の子「花子さん」の存在に悩み、あまり元気が無いのはご承知の通りである。
真夢はとにかく詩織を少しでも元気付けたくて、冬の冷たい空気の中、白い息をはずませながら、詩織の家へとたどり着いた。
「こんにちは!シオリちゃん、あそびに来たよ!」
真夢が詩織の家の玄関を開けると、意外なことに、すぐに目の前に詩織が立っていた。
「あ、マム」
詩織は真夢を見ると、気まずそうな顔で彼女に声をかけた。
よく見ると、詩織も真夢と同じようにコートを羽織っている。
午後から一緒にあそぶ約束をしていたはずだが、今から外出するような様子だ。
「シオリちゃん。今からどこかに行くの?」
「・・・・うん、ゴメンなのだ。約束破っちゃって・・・」
詩織はいつもの赤いリュックを背中に背負っていて、そこからティムも顔を出している。
「どこ行くの?」
「・・・う〜ん・・・」
詩織が言い難そうにしている。どうやらどこに行くのか言いたくないようだ。
「ティム。どこ行くの?」
真夢は今度はティムに話を振ると、ティムも詩織と同じように困った表情を見せ、
そのまま彼女のリュックの中に潜ってしまった。
なんとなく気まずい空気が流れる・・・・・。
「・・・・シオリちゃん、イジワル!」
「・・・・え?」
真夢がポツリと言葉をもらした。
「・・・・・・・・・・シオリちゃんも、ティムもイジワル!!」
「ええ!?」
驚いた詩織が声を上げた。ティムも驚いて、飛び出すようにリュックから顔を出す。
「べ、別にイジワルなんかしてないのだ・・・」
「イジワルじゃない!シオリちゃんもティムも、2人でマムに隠し事なんかして!」
「そんな気じゃ・・・」
「じゃ、どんな気なの!?」
詩織はうろたえたような表情を見せると、1度顔を伏せ、それからチラっと真夢の顔を見た。
「・・・でも、行き先を言うと・・・マムも付いて来るって・・・言う?」
「あたりまえでしょ!」
「やっぱり・・・」
「さ、どこ行くの?イジワルしないで教えて!」
詩織はあきらめたような表情で、ポツリと真夢に伝えた。
「・・・紅羽・・・」
真夢は詩織の言葉を聞いて、一瞬言葉を失った。
紅羽と言えば、石着山から奥へ2時間以上も歩かないとたどり着けないような僻地である。
確かに花子さんの友人の翔太が住んでいたとされる場所だが、今は人が住んでいるはずもなく、子どもだけで行くにはかなり危険な場所でもある。
「紅羽って・・・・、今から?」
「うん」
「紅羽に行けば、花子さんは離れてくれるの?」
「それは・・・・わかんない」
すると、詩織のリュックから顔を出したティムが、真夢の顔を見て言葉をはさんだ。
『マム。シオリはね、花子さんに【クリスマスの木】を見せたいんだってさ』
真夢は再び詩織の顔を見た。詩織はなんだか相変わらず気まずそうな表情をして いて、頭をポリポリとかいていた。
「うん。あのね、マム。あたし前から決めていたんだ。
花子さんの思い出の中にあるクリスマスの木、もしまだ枯れないで残っているなら、なんとかクリスマスイブの日に見せてあげようってさ」
詩織は言葉を続けた。
「正直に言っちゃうけどね。あたし・・・・・ホントは花子さんのこと、ものすごく大ッキライだったんだ。
なんであたしに取り憑くの?なんであたしがみんなに嫌われるようなことするの?みたいな感じでさ。
でも・・・・。この前ナッちゃんに言われたのだ。
『友だちが一緒にいると思えば?』ってさ。
あたし、考えてみたの。もしこの花子さんがマムだったら、あたしはどうするかな?って。
そしたらね・・・」
詩織は上目遣いでチラっと真夢の顔を見た。
「取り憑くとか離れるとか、そんなことどうでもよくなっちゃったんだ。
それで花子さんが1番喜びそうなことって何かなって考えたのだ。
そうしたら・・・」
「それが、花子さんにクリスマスの木を見せるってこと?」
詩織が顔を赤らめながら、コクンとうなずいた。
真夢は、あきれたような気持ちが半分だけあった。
でも、残りの半分。真夢の心の中に、喜びのような感動のような押さえ切れない感情が込み上げてきて、
「詩織ちゃん!!」
真夢は詩織の腕に、思わず抱きついていた。
「シオリちゃん!さっきの『イジワル!』って言ったこと、取り消してあげる!」
「ホントか!?」
「うん!でも、その代わり、マムも付いて行くからね!」
「やっぱり・・・・。すごく遠いよ。夜まで帰れないかも」
「大丈夫♪詩織ちゃんと一緒なら平気だモン」
「山の中だから、道に迷うかも知れないし、マムのキレイな服もきっと汚れるのだ」
「大丈夫大丈夫♪そんなこと気にしないから!」
まるで恋人同士のようにじゃれる2人を見ながら、半ばため息をついていたティムだったが、それでも小さく微笑むと、
『やっぱりシオリとマムは、2人で1セットみたいなものだね。』
などと思っていた。
「あのね、シオリちゃん」
「なんなのだ?」
「マムね、シオリちゃんのこと、大スキ」
「アハハ・・・、ありがとうなのだ。」
「大大スキ。」
「マム、ちょっと重いのだ・・・」
「大大だいスキ!!」




