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風と歩むもの

『イタクァだ!!』


 今日は12月22日の終業式の日。

 籠目小学校で特に何事もなく終業式を終え帰宅した詩織は、こたつでティムに大好物のマーブルチョコレートを与えながら、今日見た夢の話をしていた。

 ところが詩織の夢の内容を聞いたティムが、チョコレートを口いっぱいにほうばったまま、驚きで大きな声を上げたのである。

 もちろんティムの口からマーブルチョコレートが飛び出したのは言うまでもない。


「汚いのだ、ティム。」

 ちなみにマーブルチョコが1つ、詩織の額に命中している。


「ティム。イタクァって何?」

 同じこたつでみかんを食べていた七海がティムに聞いた。

『うん。イタクァっていうのは・・・』


              ★


 ティムの話によると、イタクァもまた彼女たちが関わってきた旧い支配者に属するものらしい。

 主に風を扱う能力に長けているようで、風と共に移動を繰り返し、まるで神隠しのように人をさらっていくことがあるのだという。

 北米では「ウェンディゴ」の名でも知られていて、実際に「ウェンディゴ症」と呼ばれる精神病も存在している。


『イタクァはアメリカやカナダにしか出現例がないはずなんだけど、

 もしシオリの言うことが本当なら、あれは日本にも来ていたということになるね』

「ええ!?またそういうのが出てくるのー!?」

 こたつで仰向けになりながら、七海が声を上げた。

 無理もない。一介の少女に過ぎない七海たちにとっては、あまりにも類似するような事件に直面することが多すぎる。


『アハハ・・・、そう落胆しないでよ』

 ティムが七海の顔をペロペロとなめた。

『イタクァは目的があって特定の人を連れていくわけじゃないからね。

 別にナナミやシオリを狙っているわけじゃないと思うよ。

 シオリの夢に現れた翔太って子には気の毒だけど、偶然事故に遭ってしまったみたいなものさ』


 すると、黙ってティムの話を聞いていた詩織が声を出した。

「ティム・・・・」

『なぁに?シオリ』

「そのイタクァに連れていかれた人って、どうなっちゃうの?」

『それは・・・』


 その時、詩織たちのいる子ども部屋に入ってきた人物がいた。

「あ、リコ」

 それはもちろん工藤絵里子で、すぐに七海たちのこたつに足を入れると、前に見せたファイルを上においた。

「調べてきたよ、ナミ」

「ありがとう♪」

 絵里子はやれやれといった感じで、ファイルを開きだした。

「ゴメンねー。面倒なこと頼んじゃって・・・」

「気にしない気にしない。リコもなんだかこの事件に足つっこんじゃったからね。この前の罪滅ぼしもあるし」


 七海と絵里子のやり取りを聞いていた詩織は、不思議そうに絵里子に尋ねた。

「リコちゃん。何調べてきたの?」

「シオリ。あんたの夢について調べてきたのさ」

「夢?」


「そう。シオリの夢の中に出てくる『景山翔太』って子がいるでしょ?

 ナミから頼まれてね。そういう人物が鳳町に居るかどうか調べてみたわけ」


 絵里子の言葉に、詩織が七海の顔を見た。

 七海はにっこり笑っている。

「この前にウィジャボードで、花子さんは翔太に会いたいって言ってたでしょ。

 もし本人がいるなら、直接会ってみればどうにかなるかもってナミが言うからね」


 詩織はなるほどと思った。

 確かに七海や絵里子の言う通りで、花子さんが翔太に会えれば、それが1番の解決方法となるような気がする。


「シオリの話から推理すると、その夢の中に出てくる風景って、ずいぶん昔の時代みたいだよね。

 もし翔太って子が本当に存在するなら、大人になって鳳町のどこかに住んでるかもって思ったんだけど・・・」


 絵里子は少し含みのある言葉を残すと、ファイルの中から一枚のコピーを取り出した。

 それは古い新聞をコピーしたもので、七海はそれを見ると、落胆したようなため息をついた。

 そのコピーには、こんな表題が付けられていたのである。


『行方不明の陶芸家の息子 冬の山中で凍死体で発見』


                  ★


「戦後間もなくって感じかな。もう何十年も前の話だけど、

 いつもうちらがあそんでる石着山のもっと奥に、紅羽って呼ばれる地域が昔あって、

 そこで陶芸やって暮らしている家族がいてね。

 そこの一人息子の景山翔太って子が12月24日の夜に行方不明になって、

 2週間後に雪の中で凍死体で発見されたんだってさ」


 コピーされた新聞の記事を一通り説明した絵里子は、その記事を七海に渡すと、ふぅとため息をついた。

「なかなかうまく行かないもんだね。

 結局別の解決の方法を探さないとダメみたいだね・・・」


 結局模索していた解決方法が無駄足と知った詩織たちは、その日もため息を重ねる以外には、なんの新たな解決方法も見出せず、そのままその日を終えることになってしまった。


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