詩織と神酒
その夜。詩織は、なかなか眠ることができなかった。
自分のベッドの中に一緒に入っているティムは、すでに心地良さそうな寝息をたてている。
1度は花子さんの声を聞くことができ、少しは騒動に幕が下りるかと期待していた詩織だったが、現実はそうもいかない。
「あたし、これからどうなっちゃうのかな・・・・?」
詩織は独り言をポツリと漏らすと、そのまま黙って天井を見上げていた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、シオリ」
ふと彼女の傍から声がした。
詩織の隣のベッドに眠っている七海だ。
「ナッちゃん、起きてたの?」
「ウフフ・・・・。なんとな〜く眠れなくてね」
「ふ〜ん・・・」
七海も詩織のことが心配なのだろう。
ベッドで横になったまま、しばらく黙ってしまった詩織の方を向いた。
「少なくとも、花子さんはシオリに何も悪いことしてないでしょ?
小学校の騒ぎの他は、あんたにも別におかしいところも無いし。
あんたが気にならないなら、もうしばらく付き合ってあげてもいいんじゃない?
友だちが一緒にいると思ってさ・・・・」
「友だち、か・・・」
詩織は寝返りを打つと、傍に眠っているティムの顔を見た。
ティムは安心しきった表情で、ネコらしからぬ安眠に陥っている。
「ティムにしてもそうだけど、シオリって人間以外にも人気があるよね」
「そんな人気、ちょっと迷惑なのだ!」
「そう?でもそれって、けっこう大事なことかも知れないよ?」
「どして?」
詩織は起き上がると、不思議そうな顔をして七海を見た。
「それはね・・・」
七海もベッドの上で起き上がると、詩織にこんな話を始めた。
「あたしね、最近思い出したことがあるんだ。
どうして今まで忘れていたのかわからないけど、リコと一緒に思い出したことがあるの。
石着山の奥で起きた、『雛の森』でのこと・・・・・・。
それからシオリも覚えているでしょ?
ティムと一緒に未来の鳳町に紛れ込んだことや、カワイイしゃべる人形たちのことも・・・・。
どうしてだかわからないけど、あたしたちっていろんな危険な目に遭っているんだよね。
ミキやシュン君なんか、もっといろいろ体験している。
どれも自分たちだけだったら、どうにもならないような事件ばっかりなんだ。
でも、それでもあたしたちは生きている。
それは多分、あたしたちをその度に不思議な力で助けてくれる人がいたから。
ティムがいたり、カーヤがいたり、メリルやメアリーやベルがいたり。
ミキの話だと、ティム絡みでまた何かあるんでしょ?
今までの事件とは比べ物にならないぐらいの大きな事件が。
そんな時、シオリやあたしたちが今までしてきたことが、もう1度あたしたちに返ってくるような気がするんだ。
もしかしたら人間以外のもの好かれるっていうのも、
そういうのが関係あるかも知れないよ? 」
七海は話を続けた。
「前にね、イギリスに引っ越していったキララが、こんなことを言ってたの。
『ミキさんには、学校の成績では割り切れない力がある。』ってさ。
あたしもそう思うし、リコも同じこと思ってた。
でもね、シオリ。
そのミキとおんなじ匂いのする子が、実はもう1人いるんだ」
「誰?それ・・・・」
七海は詩織の目を見つめると、笑顔で応えた。
「シオリ。それはあんただよ♪」
★
七海の言葉に、詩織は目をぱちくりさせた。
詩織はもちろん神酒のことはよく知っている。
姉の七海の友人というだけでなく、それ以上に何か不思議な頼りがいがあるということも。
ところが、七海はそんな神酒と詩織に、共通するイメージがあると言っているのだ。
ある意味彼女が驚くのも当然のことなのかも知れない。
「あたしとミイちゃんが?」
詩織は少し絶句したが、ちょっと考えてから顔をしかめた。
「あたし、あんなにしっかりしてないよ〜・・・」
「当然でしょ。しっかり度でシオリがミキの域に達するなんて、あと50年ぐらいかかるかもね」
「あたしお婆ちゃんじゃん。」
「しっかりしているかどうか、なんて別の問題だよ。考えてどうにかなるもんじゃないんだから」
「え〜!?じゃあどういう意味なのだ!???」
七海はフフッと笑うと、自分のベッドに潜り込んだ。
「深く考えない。そういう悩み方って、シオリらしくないよ♪
明日はリコが、例の『景山翔太』って子について調べてきてくれるってさ。
花子さんは彼に会いたいって言ってたんだから、きっと解決の糸口になるよ。
だから、もう考えないで寝ちゃおう」
そう七海は言うと、そのまま彼女は黙ってしまった。
「・・・うん。おやすみ、ナッちゃん・・・」
詩織も七海に従い目を閉じた。
電気が消え、すっかり静かになった子ども部屋。
その中で七海は眠りに落ちる前、もう1つだけ、心の中である言葉を浮かべていた。
「そう言えばいつだったかママが、
『椎名家の女の子には不思議な力がある』って言ってた。
もし本当に危険のことがあたしたちの身の回りに起きるのなら、
みんなを助けてくれるのはきっと・・・
シオリとミキ・・・?・・・まさかね・・・・」




