真相
それは、誰にも信じがたい光景がそこにあった。
長い間使われていないいくつかの古道具と並び、新型の小型テレビ、最近使われたペットボトル、寝心地の良いクッション、簡易的に作られたライト、携帯電話・・・。
そこには、秘密裏に誰かが長い期間滞在していた明らかな痕跡があったのだ。
『学校荒らし』
千佳先生の頭に、すぐにこの言葉が浮かんだ。
事の重大性を認識した学校長は警察に連絡。
すぐに籠目小学校には何台ものパトカーが駆けつけ、明日の終業式を前に、学校は大騒ぎの様相となったのである。
昨日ウィジャボードを通して詩織が見たもの。
それは、まさしくこの学校荒らしの姿だったのである。
犯人は傷害を好む愉快犯。夕方からの人気の無い小学校に潜り込み、密かに生徒や職員を傷つけるタイミングを何度も狙っていたのだ。
学校で飼っている小動物を虐殺するのも、この学校荒らしの典型的な手口。
今まで犯人が傷害を狙ったのは十数回にも及ぶ。
だが、その度に無口な赤いスカートの少女が現れて、いずれも失敗。
気付かれずに成功した数少ない例が、木崎優梨子と、千佳先生本人の2件だったのである。
学校からの通報後、すぐに容疑者の名前と手口が公開された。
容疑者の名前は、『木田島 信二』
もともとセキュリティー関係の会社に勤めていたこの男は、警報装置の扱いに熟知していて、過去に傷害や恐喝の罪で何度も検挙されていた。
最後に別の県での学校荒らしの容疑者として名前を挙げられてから、長くその行方を眩ましていて、警察関係者がやっきになってその行方を追っていたのだ。
木田島の手口は、スーツを着て学校に潜り込むこと。
スーツを着ていれば、生徒に見られてもただの訪問者にしか思われないだろうし、例え先生方に見られても、堂々としていれば怪しまれることはほとんどない。
ちなみに、真夢が女子トイレに花子さんに連れ込まれた時に現れた男。
あれこそが正に『木田島 信二』本人だったのである。
★
「ふぅん。やっぱりウサギたちを殺したのは人間だったのね」
学校から帰宅後。詩織は自宅の子ども部屋で、七海やティムとおしゃべりをしながら宿題を進めていた。
明日は12月22日の終業式。
実は学校での一連の騒ぎで、この日の終業式は延期をすべきという話もあったのだが、まずは犯人の逮捕も時間の問題ということで、式は予定通りに行われることになっていた。
『花子さんみたいに幽霊を恐がる人も多いけど、1番恐いのは人間だと思うよ』
詩織の話を聞いていたティムが、いかにもという感じでうんうんとうなずいている。
「ティム、ずいぶん花子さんに肩入れしているのね」
七海がティムをからかうと、ティムは焦ったように反論した。
『そんな!ボクはいつもシオリの味方だよ!』
「わかってるわかってる♪」
そんなティムを見て、七海がカラカラと笑った。
「でも、これで花子さんがあたしから離れてくれるのかな〜?」
詩織が宿題の手を休めて、大きく背伸びをした。
「もう学校で変な目で見られるのはイヤなのだ」
そんな詩織を見て、七海もティムもため息をついた。
「ホント、あんたも強い子ね。あたしならとっくに登校拒否になってるよ」
「かなりキツかったのだ。今は少し慣れたけどね」
「シオリとマムちゃんが泣きながらミキに連れてこられたのを見た時は、本当にびっくりしたよ」
詩織は七海と顔を見合わせると、舌を出しておどけて見せた。
『マムはシオリになんて言っているの?まだ花子さんは傍に居るのかい?』
「うん。まだ見えているって」
『傍にいるのに話が聞けないなんて、なんか不便だね』
「あたしもそう思うのだ」
『もう1回ウィジャボードを借りてみる?』
詩織はティムの方を見ると、焦った表情で両手を前に出した。
「パスパス!!あれはもうイヤだ!」
『・・・やっぱり、そりゃそうだよね』




