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ヴィジャボード

「へぇ〜、シオリが花子さんに取り憑かれたんだって?」


 次の日の朝。詩織の暗い気持ちをちゃかすかのように彼女の家に絵里子が現れた。

 電話で彼女を呼び出したのはもちろん七海で、彼女は妹のことが心配になり、彼女にアドバイスを求めていたのである。


「ちょっとリコ!少しは気を遣いなさいよ。シオリはシオリで気にしてるんだから!」

「アハハ・・・、ゴメンゴメン!しかし、ナミん家も最近数奇な運命ってやつに好かれてるね」

七海が絵里子をいさめるが、絵里子はそんな彼女にもお構いはない。


 もともと絵里子はそういう性格で、それが頼もしい時があり、うっとおしい時もあるのだが、今は迷惑なほうね、と七海は思っていた。


 絵里子が七海たちの部屋に入ると、そこにはもちろん詩織の姿があった。

 彼女は自分の勉強机にボーっとして座っていて、見るからに元気が無さそうでに見える。

 傍にはティムがちょこんと座っていて、詩織を心配そうに寄り添っていたが、絵里子が来たことに気が付くと、詩織は彼女の方を振り返った。


「あ、リコちゃん・・・」

「よ、シオリ!元気してた!?」

「リコ!!」


 絵里子の態度に少し腹が立った七海は、絵里子に声を荒げた。

「怒るな怒るなナミ。あんまり暗い気持ちでいるとね、霊っていうのはますますつげ上がるのさ。ムリにでも元気にしてたほうが、霊は離れやすくなるんだよ」


 絵里子はそう言うと、部屋の中にペタンと腰を下ろし、持ってきたカバンからモゾモゾと何かを取り出し始めた。


「しかし、よく幽霊好きが『霊が見える!』なんてウソつくのは聞いたことがあるけど、あのマムちゃんがそう言ってるなら、多分本当なんだろうね」

「うん。そうだと思うのだ」

「ふ〜ん。それで、その『花子さん』は、まだシオリの傍にいるわけ?」

「・・・多分・・・」

「そこのティムには見えているのかい?」


 絵里子の質問に、ティムが答えた。

『ボクには見えないよ。もともとそういう能力はないからね』

「なんだ。不思議生物のわりに、役に立たないヤツだね〜」

『悪かったね!フン!』

 ティムがプイっと横を向いた。



「ところでさ、リコ。あんたさっきから何してるの?」

「あたし?これさ!」

 絵里子がカバンから取り出した物。それは、奇妙な形をしていた。

 50センチ四方ほどの装飾が施された50音の書かれた木製の板と、それより小さなハート型の板。

 詩織も七海も、今までに見たことのない不思議な形をしている。


「何?それ」

「これ?ウィジャボードさ!」


                     ★

 ウィジャボードとは、欧米に伝わる一種の降霊術のための道具である。

 日本でいうところの、「こっくりさん」ど同系列のものと言えばわかりやすいだろうか?

 板の上に書かれた文字を、もう1つのハート型の板が指し示すことにより霊の意思を読み取るもので、本来は文字はアルファベッドで書かれているのだが、多分絵里子が改造したのだろう。

彼女の持ってきたウィジャボードは、日本語で文字が示されている。


                     ★


「あんた、普段いったい何考えて生きてるの?」

 あきれた七海が、絵里子を皮肉るように細目で彼女を見た。

「まだ使ったことないんだよね。今日がデビューなのさ!」

「あたし、これから友だち選ぶ時考えることにするわ・・・」


 絵里子に言われるままにウィジャボードの前に腰を下ろした詩織は、彼女の助言に従い、ハート型の板を持つと、意識を集中した。

 目を閉じ、自分の中にいると思われる花子さんに問いかける詩織。

 その様子を、七海たちが固唾を呑んで見守る。


 やがてしばらくすると、まるで冬眠から覚めた小動物が動き出すように、ゆっくりとウィジャボードが反応を示し始めた。


「ウソ!?ホントに動いた?」


 思わず大きな声を上げそうになった七海を、絵里子が指を口に当てて制止する。そして動き始めたウィジャボードに、絵里子が注意深く質問を始めた。


「最初に名前を伺います。あなたのお名前はなんですか?」


『・・・花子・・・』


「やっぱり花子さんですね。あなたは今、どこにいるんですか?」


『詩織の中』


「やっぱりそうか。」

 ウィジャボードの反応に、絵里子がため息をついた。

「花子さんがシオリに取り憑いているのは、どうやら本当みたいだね」

「ちょっと、リコ。早くシオリから離れろって、花子さんに言ってよ!」

「待ちなよ、ナミ。こういうのは順番があるからさ」


 再び絵里子が質問を続けた。


「あなたはどこから来たのですか?」


『・・・・・紅羽』


「どうしてシオリに取り憑くのですか?」


『・・・・・・・・・・』


「シオリから離れてもらえませんか?」


『・・・・いいえ・・・・・』


「どうしてですか?」


『・・・・・・・・・・』


 絵里子の最後の質問に、急にウィジャボードは反応を示さなくなった。


「どうしたの?リコ」

「う〜ん・・・」


 絵里子が腕を組んで考え込んだ。

 前にも説明したことだが、絵里子はオカルト的な知識に長けていて、こういうことにはかなり詳しい。

 だからこの事態についてもある程度予想はしていたらしく、彼女は七海の顔を見ると、真顔で簡単な説明をした。


「込み入った事情があるみたいだな・・・・。

 ウィジャボードってさ、難しい会話にはあんまり答えられないらしいんだよね・・・」


 すると突然、絵里子たちの予想外の出来事が起きた。

 詩織の握っていた板が、急に勢いよく動き始めたのだ。

 尋常な動きではない。何か異変が起きたらしいということは、誰が見てもきっと感じ取れる様子だ。


『翔太に会いたい・・・』

 板が1つの文を作った。しかし、ウィジャボードの動きは止まらない。

 何度も何度も繰り返して同じ動きをし、その度に板が同じ文字を指し示す。

『翔太に会いたい。翔太に会いたい。翔太に会いたい。翔太に・・・・』


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