狙われた真夢②
真夢は必死に叫び声を上げようとしたが、この少女のせいで、どうしても声を出せない。
なんとかあの人に、あたしがここにいることを伝えないと・・・・!
しかし、無情にもその人物は真夢に気がつくこともなく、そのままトイレから出ていってしまった。
この子は幽霊!?
真夢の頭の中は、すっかりパニックに陥っていた。
事態を冷静に分析することなどできるはずがなく、とにかく今の状況をなんとかしたい。
早く逃げないと!
そして、それからしばらくしてのことだった。
ふいに、少女の手の力が緩んだのを真夢は感じ取った。
今しかない!
そう思った真夢は、強く少女の手を振り払うと、トイレから廊下にとび出した。
それはもちろんそこから逃げ出すためでだっらが、彼女が廊下に出て1階に駆け下りようとした時、彼女はそこで再び立ち止まってしまった。
詩織の姿をした者が、また真夢の前に立っていたのだ。
「!!」
真夢の体に緊張が走った。
今度こそ逃げられない!?真夢がそう思った時だった。
「・・・マム?こんなところで何してるのだ?」
キョトンとした表情で真夢を見つめる女の子。
そう、そこにいたのは幽霊ではなく、正真正銘の本物の詩織だったのである。
★
「いる!やっぱりいるよ!花子さんが学校に!!」
学校からの帰り道。
約束どおりに詩織と真夢は一緒に帰途についていたが、ついさっき起きたばかりの出来事に、真夢は詩織に立ち止まってその内容を伝えていた。
」「どうしてかはわからないけど、花子さんが学校の生徒を狙っている!
だって、あたしの《瞳》があたしにそう言ってたもん!」
《瞳》とはもちろん《真実の瞳》のこと。
真夢の話を聞いた詩織は、彼女の顔を見ながら、少し不安そうな表情を浮かべた。
「・・やっぱり・・・。でも、どうして花子さんは、あたしの格好で出てくるのかな・・・?」
「シオリちゃん!」
真夢は詩織の顔を真剣に見つめた。
「花子さん、きっとシオリちゃんに何か伝えたいことがあるんだよ。だからシオリちゃんの姿で現れるんだと思う。シオリちゃんが見ている夢も、きっと何か関係があるはずだよ。」
「夢が・・・?」
「うん!」
詩織は、改めて自分の夢の中に現れる「ハナ」と呼ばれる少女について思い出していた。
繰り返し見るリアルな夢の中の情景。
確かに言われてみれば、納得できる部分も多い。
「花子さん、あたしに何を伝えたいんだろ?」
「それは・・・・・、わかんないけど。でも、きっとシオリちゃんの夢の中に答えがあるんだよ。
シオリちゃん。シオリちゃんが早くそれに気付いてあげないと・・・」
すると、そこでふいに真夢の言葉が止まってしまった。
はっとして詩織を見つめる真夢。
真夢は、つい自分が少し興奮していて、詩織の気持ちも考えずに言葉を多く重ねすぎていたことに気付いたのである。
不安そうに詩織が真夢を見つめている。
そんな詩織を見て、彼女は少し冷静さを失っていた自分を恥じていた。
「ゴメンね・・・、シオリちゃん。今1番つらいのはシオリちゃんなのにさ・・・」
「ううん・・・」
詩織が首を横に振った。
「そんなことないよ。あたし1人だったら泣き出しちゃうかも知れないけどね。
でも、マムが一緒にいるから、そんなにつらいとは思わないのだ」
「・・・シオリちゃん・・・」
真夢が詩織の手を握った。
「こんなこと、多分大人の人には話せないからね。一緒になんとか解決しようよ。」
「・・・うん・・・」
詩織は考えていた。
今彼女を取り巻いている状況は、正直言って好ましいものではない。
大人に相談しても、多分解決することはないだろう。
さっき真夢にも言ったとおり、彼女1人だったら、きっとその重さに押しつぶされていたはず。
でも、詩織は1人ではない。
詩織には、信頼できる知人が数多くいる。
いつも寄り添ってくれる真夢。
トボけた顔をしていても、いざという時には頼りになるティム。
そして、七海や絵里子、神酒も瞬も、きっと力になってくれるはず。
ところがこの時、少し迷っていたような表情を見せていた真夢が、詩織にある事実を伝えた。
真夢の瞳が、淡く琥珀色に輝いている。
これは再び彼女の特殊な能力《真実の瞳》が発動している証で、今真夢には詩織には見えない【真実の何か】が見えているのである。
そしてそれは、これからの彼女が解決のために決心しなければならない、ある衝撃的な【事実】だった。
「あのね、シオリちゃん。あたし、さっきから言っていいのかなって思っていたことがあるんだけど・・・」
含みのある真夢の言葉。
「いいよ。さっきからショック受けまくりだもん。1つ2つ増えたって、あんまり変わらないのだ」
「あのね、シオリちゃん・・・」
真夢が申し訳なさそうに詩織を見つめた。
「《真実の瞳》のせいかも知れないけど、あたし、さっきから見えているんだ・・・・」
「何が?」
「シオリちゃんの後ろ・・・。赤いスカートをはいた女の子が、ずっとさっきからシオリちゃんの後ろに立っているの・・・。
多分他の人には見えないんだと思うけど・・・。多分、その子があの『花子さん』だと思うよ・・・」