花子さんの話
日曜日。
近くの公園であそんでいた七海、詩織、そしてティムのところへ、昨日電話で連絡をした通り、七海の親友でクラスメートの絵里子がやってきた。
前にも記した通り、絵里子は七海の昔からの幼なじみで、一緒にバスケ部で活躍している間柄である。
絵里子にたくさんある趣味の中の1つに、「怪談の研究」というものがある。
絵里子は昔から大の怪談好きで、逆にその手の話が大嫌いな、七海の泣き所的存在でもあるのだ。
ジャングルジムの上にいた詩織と七海の姿を確認した絵里子は、彼女もその上に登ってきて、2人の隣に腰を下ろした。
手には何やらいくつかの資料が入ったファイルがあり、いろいろと彼女なりに『花子さん』について調べてきた様子がある。
「おはよう、リコ!」
「リコちゃんオハヨウなのだ!」
七海と詩織のあいさつに、絵里子が笑顔で片手を上げた。
「オス!さて、昨日ナミに言われた通り、花子さんについてちょっと調べてきたよ!」
絵里子が、手に持っていたファイルを広げた。
「とりあえず、インターネットのサイトから、こういうお話は見つけてきたんだけどさ・・・」
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『 花子さんのお話【遠野事件より】
これは、東北地方のある小さな町に伝わるお話です。
戦中から戦後にかけてのお話でしようか。銀行に勤める夫を持つ、ある仲の良い夫婦がいました。
夫婦には3人の子供がいて、小学校3年生と1年生の女の子。そして、まだ小学校にもあがっていない弟が一人。
一番上、長女は花子という名前でした。
家族はとても仲良しで、毎日貧しくも心の満たされた生活をしていました。
特に長女の花子は学校が大好きで、暇があれば学校に行って友達とあそんだり、
小さな冒険や発見をしては、好奇心いっぱいの楽しい毎日を過ごしていました。
花子には、今の暮らしにはなんの不満もありません。
そんな幸せな生活が、彼女にはいつまでも続くように思われました。
しかし、それは花子にとって、ほんの短い間の幸せでしかなかったのです。
ある日を境に、幸せな生活は少しずつ、まるで綿飴が溶けていくかのように崩れていったのです。
最初花子は、「お父さんとお母さんがケンカでもしたのかな?」
ぐらいにしか考えていませんでした。
「ケンカならいつものことだモン。またすぐに仲良くなるよね」
しかし夫婦の不仲は、まったく良くなりません。
それどころか日が経つにつれて、お父さんとお母さんの仲は、ますます険悪になっていったのです。
原因は、お父さんの浮気でした。
いつか父親はすっかり家に帰ることはなくなり、母親はショックのあまり、奇行が目立つようになってきたのです。
もちろん花子はそのことにすぐに気づきましたが、だからといって彼女にそれをどうすることもできません。
せめて弟や妹に心配をかけまいと、花子は精一杯。例え辛くても明るく振舞っていました。
しかし、突然その悲劇の時は来てしまいました。
ある日、花子が学校での授業を終えて家に帰ると、そこに信じられないものを見つけてしまったのです。
家の玄関の扉を開けると、そこに転がる2つの骸。それは、幼い弟と妹の亡骸でした。
そして、そのすぐ側に立ち尽くす鬼の形相の人影を彼女は見てしまったのです。
それは、花子の母親でした。
夫の浮気に耐え切れなくなったショックで、花子の母親は、我が子をその手で殺してしまったのでした。
「お母さん!」
しかし、その人はもう、優しい花子の母親ではありませんでした。
鬼と化してしまった花子の母は、花子をもその手にかけようと、両手を伸ばして花子に迫りました。
花子は逃げました。
しかし、鬼はどこまでも花子を追いかけてきます。
「そうだ!学校へ・・・」




