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プロローグ1

 鳳町の外れにある寺社・暦延寺。古く室町時代から存在しているこのお寺は、もともとは尼寺なのだが、

現在はその面影を多少残しているものの男性の住職が治めている。

 治めているとは言っても、ここに住職が常駐しているわけでも無く、時々関係者が掃除などに訪れるぐらいで、普段は無人の寺として町の住人から理解されていた。


 12月の初め。なぜかここに神酒ミキの姿があった。

 いや、神酒だけではなく、その友人の七海ナミ絵里子リコもそこにいた。


 なぜ彼女たち3人がこの場所に居たかというと、実は彼女たちは籠目中学校の職場体験としてこの寺を訪れていて、暦延寺の住職から寺の掃除を言いつけられていたのである。


 本当は神酒たちもコンビニやらIT関係の職場体験に挑戦したかったのだが、人気のあるものはあらかた他の生徒たちに取られてしまって、仕方なく3人一緒に赴ける場所として、この寺を選んでいたのだった。


「あ〜あ。あたしはいったい、何をやってるんだろ?」

 本堂を雑巾がけしながら、神酒がブツクサと文句を言った。

「掃除でしょ、掃除」

 七海が言葉を返す。

「それはわかってるけど、なんで職場体験が清掃活動になっちゃうの?」

 神酒が頬をプクッと膨らました。

「何言ってんの。ミキがジャンケンで負けちゃったからこんな辺境に来ることになっちゃったんでしょ!

 あたしだってさ、ホントはもっとカッコイイところ行きたかったのに・・・」

 すると、本堂の本尊の後ろから、絵里子がヒョコっと顔を出した。

「ミキ!ナミ!口ばっか動かしてないで、ちゃんと手も動かしてよね!早く掃除終らせないと、家に帰れないよ!」


「へ〜い」

「へいへい」


「だいたい掃除のどこが職場体験なんだろ?雑用押し付けられただけじゃん・・・」


                  ★


 ブツクサと文句を言いながらも、なんとか掃除完了の目途がついてきた神酒たちは、後は仕上げとばかりに最後の作業に入っていった。

「それじゃ、あたしとリコはバケツと清掃用具片付けてくるから、ミキはやり残しがないかチェックしててね」

「うん、わかった」


 七海と絵里子が本堂から外に出た後、神酒は1人で本堂の中を歩き回りながら、辺りの様子をいろいろと観察していった。

 掃除をしている時は気付かなかったが、この無人の寺には多くの仏像が展示してあり、改めて見るとなかなか興味を惹かれるものがある。


 神酒はその1つ1つをまじまじと眺めていたが、そのうち彼女は奇妙なことに気が付いた。

「・・・」


 本堂の片隅から、なにやら物音がする。いや、物音と言うより誰かが話しかけているような感じだ。

「・・・・・誰?和尚さん居るんですか?」

 神酒が声のする方に行ってみると、そこにあった物。


 それは、一体の彫像だった。

 大きな翼をたたんだ巨大な鳥の古い彫像で、一般に『鳳凰』と呼ばれる物である。

 どうやら声は、その鳳凰像の中から聞こえてくるようで、神酒は意を決して、その鳳凰像に耳を当てた。すると・・・・。

『・・・・ユキノ・・・・・ユキノ・・・』

 声は確かに、この鳳凰像の中から聞こえてくる。


 神酒は息を飲むと、思い切ってその鳳凰像の声に応えた。

「・・・・・ユキノ?ユキノって、人の名前?」

 すると、鳳凰像は神酒にこう言葉を返してきた。

『・・・・・何を言っている・・・・ユキノは・・・お前だ・・・』


 驚いた神酒は、鳳凰像からパッと離れた。しかし、鳳凰像は続けて神酒に話しかけてくる。

『・・・・・最後に逢えて良かった・・・もう私の力は限界だ・・・・後は頼んだぞ・・・・』


 最初は気味が悪いと思った神酒だったが、鳳凰像に不思議な親近感を持った彼女は、急にこの彫像のことが心配になった。

 とにかく尋常ではない。

「どういうこと?後を頼むって、いったい・・・・・?」


 その時だった。鳳凰像に亀裂が走った。

 神酒が後ろに下がると、さらに亀裂は大きくなる。

 それはあっという間の出来事で、亀裂の入った鳳凰像は神酒の目の前で、無音のままに粉々に砕け散ったのだ。


 そして、それと同時だった。

 突然神酒の頭を強いショックが襲うと、彼女はそこで気を失ってしまったのである。


                ★


「・・・・・・・・・・・ミキ!ミキ!!」

「ミキ、大丈夫!?しっかりして!」


 どこかから、神酒を呼ぶ声が聞こえる。

 気が付いた彼女が目を開くと、そこには彼女を心配そうに見つめる七海と絵里子の姿が見えた。

 長い時間ではないが、どうやら神酒は本堂で気を失っていたらしい。


「大丈夫?どうしたの?ミキ」

「びっくりした〜。大丈夫か?」

 2人は手を差し伸べ、神酒を立ち上がらせた。

 どうやら体はなんともない様子だ。


「・・・・・ありがとう、ナミ、リコ」

「どうしたの?ミキ」

「うん、あのね・・・」


 その時だった。神酒は自分の左腕に、今までとは違った奇妙な違和感があることに気付いた。

 不審に思った神酒が、自分の左腕の袖をめくると・・・・。

「・・・・あ!?」

 彼女は驚きで声を上げた。


 神酒の左腕。

 そこには、かつて彼女がウォーカーフィールドで手に入れた、治癒能力をもたらす碑文が刻まれているはずだった。

 この治癒能力により、今まで彼女たちはいくつかの事件を切り抜けてきたのである。

 彼女のお守りとも言うべきヒーリングパワー。


 ところが今、彼女の腕にはなんの痕跡も見当たらない。

 そこにあったはずの碑文が、すっかりと消えていたのである。

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