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コード・スピリット  作者: カツ丼王
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23.真実

 海斗、亜紀、良太の三名は二階堂邸を襲撃後、良太の家へと戻っていた。


「……」


 海斗は車に乗ってここにたどり着くまでの間、終始無言だった。亜紀と良太は彼の様子を察して、何があったのかを聞かなかった。


「……よし。……GRDを起動するぞ」


 部屋のソファに腰かけていた海斗は重い口を開き、奪取したGRDを操作し始める。IDとパスワードを入力し、DNA情報なども備え付いているセンサーによって解析しているようだった。


『竜崎海斗 認証しました』


 GRDから音声メッセージが流れ、パネルにはスタート画面が表示される。


「……」


 海斗は無言でGRDを操作し続ける。ホーム画面に見覚えのないファイルがあり、パネルをタッチして中を調べた。


「……これは」


 中にあったのはテキストデータのみで、それに表示されていた文字列はどうやら電話番号のような物らしかった。


(……電話を掛けろってことなのか?)


 海斗はGRDの通話機能を呼び出し、スピーカーモードに変えて亜紀や良太にも会話内容が分かるようにした。


「……今から、電話を掛ける……。誰が出るか分からんが……」


 番号を打ち込みテーブルの上に置いて、相手が応答するのを待つ。


 呼び出し音が三コール鳴ったところで通話状態になった。


『……お待ちしていました。竜崎海斗さん。……いえ、犀崎海斗さん』


 電子音で構成された無機質な声が海斗の名前を呼ぶ。亜紀と良太はその声に少しばかり眉をひそめるが、海斗は驚かずに冷静を保った。


「……早速で何だが、お前は何者だ?」


 海斗は電話の向こうにいる主の正体を探ろうとする。


『私は二階堂新蔵氏によって制作された人工知能――ウロボロスと申します』


「――は!?」


 その返答に驚きを隠せない海斗。


「人工知能!? なぜそんなものが!?」


 亜紀も良太も事態が全く理解できていない様子である。


『私が作られた理由については答えられません。また、私自身についても詳細は申し上げることはできません。禁則事項となっていないのは、五年前の襲撃事件、それに関連する事柄のみです』


 淡々とそう答える人工知能と名乗る存在。海斗は深呼吸をした後、疑問を一つ一つ片付けるため質問を続けることにした。


「分かった。……ウロボロス、お前が知る限りの事件の事実を教えてくれ」


『承りました』


 海斗達はその声に全神経を集中させる。


『二〇六五年七月二〇日 午後一一時四十五分、二階堂新蔵氏の個人研究所が襲われました。警備システムは機能していませんでしたが、新蔵氏が秘密裏に研究所内に設置していたカメラや盗聴器によって侵入が発覚しました。襲撃者はヘルシャフト社の私設部隊であると考えられます』


「……ヘルシャフト社……それは間違いないのか?」


『はい。研究所に残された死体からは損壊が激しくDNAの採取が困難でした。しかし、私は襲撃の際の画像や音声、そして血液データも回収できたため特定が可能でした。割り出せたのは襲撃者の内四名で、いずれもヘルシャフト社と関係がある者や直接雇用されていた人間でした。そちらに彼らの個人情報と事件当夜のデータを送りますので、確認してください』


「……良太」


 良太は部屋の壁に設置してあるモニターを起動し、海斗のGRDと同期させてそのデータを表示させた。


「……襲撃者の正体は分かった。それで?」


 モニターのデータに目を通した海斗は、ウロボロスに話を続けさせた。


『新蔵氏は襲撃直後、自室から第2研究施設へと移動し、そこで竜崎海斗氏が倒れているのを発見しました』


「……先輩が……」


 良太は悲しそうな表情を浮かべ、海斗は目を瞑った。


『そこで竜崎氏が危険な状態にあると判断した新蔵氏は、竜崎氏を抱えて地下の研究施設へと運び出しました。この一連の行動の間に、彼は居合わせた襲撃者四名と戦闘を経ます。先ほどのデータは氏がその時に回収した物です』 


 海斗は襲撃者側にも被害が出ていることに疑問を抱いていたが、新蔵によるものだと分かり納得した。


「……地下の研究施設か。……それで俺はどうなったんだ?」


『氏はクローン人間を製造するための培養カプセルへと竜崎氏を投入し、延命を図ったようです。しかしながら、出血が酷く生命維持が困難だったため、別の手段で竜崎氏の命を保存しました』


 ウロボロスはここでいったん話を切った。


「え? ……クローンって……二階堂先生は何でそんなものを!?」


 亜紀は不可解そうな声音で問う。


 一方、海斗には薄々何が言いたいのか理解できていた。


(……クローン……培養カプセル……ということは……)


「……もうお分かりですね、犀崎さん」


 ウロボロスは海斗に逆に問いかけた。


「……ああ、俺は……」


海斗は動揺を表に出さないよう、注意しながら口を開く。



「――竜崎海斗のクローンなんだな?」



「……そんな……」


 淡白な言葉で返す海斗に対して、亜紀と良太は目で見てわかるほどに狼狽していた。


「……なんとなく分かってたけどな。……髪が白くて若返ってたのはそういうわけか……」


 海斗はやれやれと言った様子で両手を挙げる。


『はい、髪が白いのは五年間で一六歳相当の肉体にまで成長させた弊害です。あなたは死の間際の竜崎氏から記憶や人格データを抽出し、他の場所で作った肉体にそれを読み込ませたクローンです。DNAは変わらない上、記憶は竜崎海斗氏のものですから、本物と言っても差し支えないと考えます』


 ウロボロスはフォローするかのようにそう告げる。


「なるほどなるほど、それで竜崎海斗と先生はどうなったんだ?」


 海斗は悩んでいる素振りを見せない。その姿を見る亜紀と良太は複雑そうな表情を浮かべていた。


『新蔵氏は私に命令を残した後、あなたのGRDに番号を残し、自分のGRDも含めて火災から逃がすために金庫に保管しました。地下施設にはカメラなどがなかったため、はっきりとは言えませんが……おそらく両名ともそこで死亡したものと考えられます』


 感情の籠っていない声が部屋に響き、海斗にはそれが永遠であるかのように感じられた。


「……そうなのか、まあこんなもんだろう……」


 海斗は頭を掻きながらそう呟く。


「ああそうだ、……お前なのか? 目覚めた俺をあそこまで運んだりメールを送ったりしたのは?」


 海斗は大事なことを思い出し、人工知能に尋ねた。


『はい、そのとおりです。メールは私があらかじめ新蔵氏に指示された内容を送りました。運んだのは私ではなく、あなた自身です。脳に行動プログラムを焼き付けて、ご自身で直接移動してもらいました』


「……俺はロボットのように自分で歩いて、あの部屋に行ったってことか」


 自分で歩いた、という事実に海斗は呆れたような様子だった。


『あなたの肉体の管理、犀崎海斗という個人情報の偽証、電子メール、そして今あなたに事実を伝えることなど――以上が、新蔵氏が私に命令した内容です』


 ウロボロスの発言に海斗は少しだけ焦ったような顔つきになる。


「おい、まだ分かんないことだらけだぞ! ……地下の施設――クローンや人工知能なんて、なんで先生はそんな物作ってたんだ? 大体なんで俺をクローンにまでしておいて、最初からその事実を教えなかった? ……いや、そこまで分かってたなら、なぜ今まで公表しなかったんだ? 他にもまだ――」


 矢継ぎ早に質問をぶつける海斗。


『申し訳ありませんが、先ほど申し上げた通りプロテクトが掛けてあり、私の一存ではお教えすることが出来ません』


「……はあ。何なんだよ……」


 海斗は辟易とした様子でソファに座り込んでしまった。


『私は話せませんが、新蔵氏本人でしたら話すことが出来ます』


 ウロボロスがそう言うと、海斗のGRDにメールが届いたようだった。


「……これは?」


 海斗は画面を確認して首を傾げる。メールの文面には何も書かれておらず、添付ファイルが二つ用意されていた。


『新蔵氏の肉声を記録した音声ファイルです。そこにあなたが知りたがっている残りの真実が語られています』


「――え、そうなのか!?」


『はい。そしてこれで私の仕事は終了です』


 ウロボロスはそこまで言って、間髪入れずに次の言葉を口にした。


『最後に、ここまでたどり着けたあなたに敬意を表します。――それではまた、どこかでお会いしましょう』


 そう言い残して、電話は切れてしまった。


「え? ……ちょ、おい!?」


 海斗は慌ててリダイヤルを掛ける。


『……この電話番号は現在使われておりません――』


 数コール後、出たのは先ほどよりもコンピュータチックな返事だった。


 あっと言う間の出来事だったが、三人は顔を見合わせて今の出来事が現実の事だと確認し合った。


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