17.仇敵
有紗との関係を改善することが出来た海斗は、一人で帰路に着こうとしていた。
「待ちたまえ。犀崎君」
二階堂邸の門を越えたところで、海斗は宇佐美に呼び止められた。
「……何でしょうか?」
海斗は歩みを止め、不審に思いながらも振り返った。
「……君が興味を抱いているであろう竜崎海斗のGRD。あれは有紗君の部屋の金庫の中にある」
(――ッ!?)
海斗は宇佐美からの思いもよらぬ発言に驚いた。
「すまないな。彼女の前で竜崎の名を出すのは、あまりにも酷だと判断したのだ」
「……どういうつもりですか?」
意図が理解できない海斗は宇佐美を睨み付ける。
「私は『君に全てを話す』と約束した。……その義務を果たしただけだ」
何の事はないと宇佐美は言い切る。
「……そうですか。用件はそれだけですか?」
海斗は宇佐美をくまなく観察し、彼が何を考えているのか推し量ろうとした。
「……君は竜崎海斗という男を知っているか?」
宇佐美はそう言いながら、鋭い視線を海斗に向ける。
このタイミングで、その名前が出て来たことに動揺した海斗だが、冷静な口調で回答した。
「……ええ、確か、能力開発で少し注目を集めた方ですよね。……事件で死亡してしまったようですが……」
その言葉を聞いた宇佐美は、目を閉じて黙り込んでしまった。
「……? ……あの――」
「――ヤツは天才だった――」
宇佐美は初めて感情を示した。しかし、その表情は怒り、悲しみ、喜び――そのどれなのか海斗には判断が出来なかった。
「……あの研究所で働いていた者たちはいずれも優秀な人間ばかりだったが、竜崎は他の者とは違った……」
宇佐美の視線は虚空を見つめており、目の前にいる海斗は見ていないようだった。
「……あなたのように、ですか?」
海斗はやや皮肉を交えて問いかける。
「……ふ、ヤツの前では私など霞む。――あれは獣だ」
口角を吊り上げて、心底愉快そうにそう呟く。
「……」
再び沈黙が二人のいる空間を支配した。
「……すまない。つまらないことで貴重な時間を使わせてしまったな」
以前と同様に、宇佐美は感情のないロボットのような姿に戻る。
「……くれぐれも、気を付けて帰りたまえ」
宇佐美は意味深な言葉を残し、海斗の前から去って行った。