〔エピローグ〕
穏やかな光が差し込んできている。グローリアの王城は王女であるアルディスがみつかったことで、喜びに沸き返っているのだった。
そんな、城内の一室。そこでぼんやりとしたような表情でいるのは、今回の件での最大の功労者ともいわれているセシリアだった。そんな彼女のかたわらに近寄っているミスティリーナ。
「リア、ぼんやりしてどうしたのよ」
彼女がそうなる理由はわかっている。それでも、それではいけないと彼女は思っているのだった。
「リーナ……」
「そりゃ、あんたの気持ちもわからないことはないけれどもね」
セシリアがカルロスに対して抱いていた思いをミスティリーナは知っている。そして、それが叶うことがないことも。
グローリアに無事に帰還したアルディス。その彼女のそばに寄り添っているカルロス。周囲の思惑もあるだろうが、二人の気持ちが通じ合っているのも間違いない。この二人の婚約が正式のものとして発表される日が近いのも間違いがないことだった。
「カルロス様に何も言わなくてよかった」
セシリアは思い出したようにポツリと呟いているのだった。
「あたしはそうは思わないんだけど? あんたはスッキリしないでしょう?」
「でも、そうしていたらアルディス様を悩ませていたわ。それくらいなら、今の方がよかったのよ」
そういうセシリアの言葉にミスティリーナはため息をついている。その顔に浮かんでいるのは、わからない、というような表情。そんな彼女にセシリアは笑っているのだった。
「リーナ。そうやって、私のことを心配してくれるあなたが好きよ。でも、いつまでも落ち込んでいられないのよね」
「そうなの?」
セシリアの様子が変わったことにミスティリーナは首をかしげていた。その彼女の目は部屋中にある花束に釘付けになっているともいえるのだった。
「リア、これは?」
「アルディス様の婚約が決まった途端なのよね。本当になんて言ったらいいか」
セシリアの言葉にミスティリーナはどう言っていいのかわからないようでもある。思わず、ポカンとした顔で彼女はセシリアにたずねているのだった。
「えっと……あのシスコン、今度はリアにちょっかいかけてるの?」
呆れたようなミスティリーナの声が室内には響いていた。信じられないという顔のミスティリーナをみてセシリアは笑っているだけだった。
そして、同じ城内の別の場所。
そこで、アルディスはカルロスと穏やかな時を過ごしていた。ようやく、自分の思いを口にすることができて幸福な思いでいるアルディス。その彼女を暖かく見守っているカルロス。
「カルロス様、わたくしでよろしいの?」
それは、今まで何度も口にされた問いかけ。それに対するカルロスの答えも同じものだった。
「当たり前だろう。お前もいろいろなことがあったからな。心配になるのはわかる。だがな、俺がお前のことを愛しているのは間違いない」
そう言ったカルロスはその場にあらわれた影をみつけて、少し嫌そうな顔をしていた。もっとも、相手はそんなことを気にしてはいない。流れるような銀髪が日の光に輝いている。
「お兄様」
「シュルツ」
ジェリータの意識を身に受けたことで彼のことを『お兄様』と呼ぶアルディスの嬉しそうな声とカルロスのちょっと当惑したような声。それらを軽く流したシュルツはアルディスのそばに近寄ると、その髪を撫でているのだった。
「調子は大丈夫かい?」
「ええ。でも、本当にあれでよろしかったの?」
シュルツの顔をジッとみているアルディス。その彼女を彼は愛しげにみつめている。
「そうしないといけなかった。やっと、ジェリータもゆっくりと休める」
シュルツのその声にアルディスは微かにうなずいていた。それは、すべてを知りながら受け入れたアルディスの覚悟でもあるのだろう。
「困ったことがあれば、いつでも相談においで。僕にとって君は、ジェリータと同じだから」
そう言うシュルツの耳にはアルディスを呼ぶアルフリートの声も聞こえているのだろう。笑いながら、その姿を消そうとしていた。
「そっちの坊やは気にならないけれども、もう一人の駄々っ子は苦手だよ。また、様子をみにくるからね」
その言葉に突っ掛かろうとしているカルロス。そんな彼をたしなめているアルディス。そして、微かに聞こえてくるアルフリートの声。それは、王国の平安を物語るものだったろう。そんな中、アルディスはカルロスと同じくらい大切な相手の姿をみつけていた。
「セシリア、一緒にいてくれるわよね?」
アルディスの言葉にセシリアは笑っている。それは、これからも一緒にいるという、セシリアからの言葉にならない言葉だったのだろう。光は柔らかく、その場を照らし、包み込む。様々な思いを抱きながらもお互いが必要だとわかっている。だからこその表情。そして、祝福するかのように爽やかな風がソヨソヨと流れているのだった。
―fin―