静かな、蒼の、宇宙
少年は、海が好きだった。
今日も、白い砂浜から海を眺めていた。
さんさんと降り注ぐ太陽の光が、蒼い海を照らしている。
波がうねる度に光がキラキラと反射して、蒼を奇麗に飾っていた。
少年は駆け出し、海沿いの崖に向かった。
この崖は少年にとって海を眺める最高のスポットであり、また海へ飛び込むのにも都合のいい場所だった。
背の低い緑で敷き詰められた崖に、ぺたんと腰を下ろす。
海は飽きない。
波のうねり、光の反射、そして鮮やかな蒼。
どれもが少年の心を満たしてくれる。
しばらく海をぼんやりと眺めていたその時。
少年の目に、何かが映った。
ずっと遠くで、一瞬だけしか見えなかったから、よく分からなかった。
しかし、確かに何かを見た。
目を凝らして、その場所をじっと見つめる。
―――――…
「あっ!」
見えた!少年が小さな声を上げる。
ずっと遠くに見えたもの…それは、紛れも無くイルカの姿だった。
少年は白いシャツを適当に脱ぎ捨て、崖の先に向かって走った。
そして、そのまま碧い空へと身を投げ出し、蒼い海へとダイヴする…
海の中は、かくも静かだった。
しかし、何だかいつもの海と違う。
何も無いのだ。
色とりどりの魚が海中を駆け抜け、海上から差し込む光が淡く揺れる。
しかし、海草の類やごつごつした岩、珊瑚なんかも、何も無い。
しかし、小さな熱帯魚や大きなエイ、海月なんかも、共にゆったりと泳いでいる。
平和、という言葉をそのまま体現しているかのような空間。
その空間を越えた先に、イルカは居た。
イルカを見るのは初めてだった。結構大きくて、優しい瞳をしている。
イルカは少年の方を見やると、くるりと後ろを向いてゆっくりと泳ぎだした。
まるで、『ついておいで』と言っているようだ。
好奇心に駆られた少年は、イルカを追う事に躊躇しなかった。
イルカはまず、少年を暗い洞窟の中へと導いた。
底が見えない深淵のような空洞内は、真っ暗で無言の重圧をかけてくる。
何処からか沸き上がってくる無数の泡が、かすかな光に照らされて、光の粒となって暗い天井へと消えていく。
イルカは臆することなくぐんぐんと先へ進み、少年もまたそれを追った。
奈落のように深い洞窟を抜けた先は、少年の知らない光景が待っていた。
少年の知る範囲の海は大抵泳いで回っている筈だったのに、このような場所が有るとは全く気付かなかった。
少年の目の前に広がるのは、旧時代のものなのか、崩壊した神殿の跡地だった。
微かに残る石畳の道には幾つものアーチが築かれ、その脇には石英の神殿が、水流と寿命で風化しつつもその巨大で神々しい姿を残している。
また、そこかしこに細かな装飾が施された巨大な柱が立っており、倒れ崩れた柱も含めて、かつてこの場所がどれだけ栄えたのかを窺い知ることが出来た。
未だ残る、海底神殿。
それは、壮大なスケールで描かれた絵画のように奇麗で、また哀愁を漂わせていた。
イルカは更に前へと進み、少年もそれを追う。
神殿を抜けた先に有ったのは、またも幻想的な場所。
太陽が送る光を浴びて、それをありとあらゆる方向に反射して返す。
返された光は虹色に輝き、辺りの岩壁や海底の白い砂を幻想色に染め上げる。
光を反射しているのは、水晶だった。
大小様々な透明な水晶が、全ての光を取り込み反射し、淡い蒼に光り輝いている。
イルカも少年も、眩しいプリズムに照らされて、周りの風景に同化した。
少年の身の丈を越えるほどの巨大水晶が地や岩肌から飛び出し、触れれば切れてしまいそうなくらいに鋭く光を放つ。
イルカと少年は、プリズムの中を更に泳ぎ続けた。
水晶群から、珊瑚礁で作られた洞窟を一つ抜けた先に、イルカがナビゲートできる最後の空間が有った。
普通の海。
背の高い緑や赤の海草が、光を求めるように海面に向かって伸びていて、其れを取り巻くように魚が泳ぎまわっている。
様々な色、形の珊瑚があちこちに生きており、またその中から小さな魚がひょっこりと飛び出した。
削られて平たくなった岩が純白の砂の間から顔をのぞかせ、庭園の道のように一本に続く。
普通の海、しかし馴染み深く、美しい海。
庭園のように整えられた空間、しかし人の手の入っていない、造られたものではない絶妙な空間だ。
奈落のような海底洞窟、神々しくも寂しげな神殿跡、幻想の水晶群、そしてこの自然の庭園。
海の中に広がる無限の光景を、まるで夢のような気持ちで少年は思い返していた…
それから少年は、毎日のように海へと潜るようになった。
どれだけ潜っても、イルカが導いてくれたような場所には何故か辿り着けない。
今思えば、夢でも見ていたのではないかとも思える。
しかし少年は、夢へのナビゲーターを探して、今日も海へと潜るのだった。
この小説(というか何なのか)は、とあるゲームを模して書いております。著作とかに引っかからなきゃ良いんだけど…(汗) この短編で言いたいテーマとかそういうのは、実は有りません(ォィ)自分の稚拙な文体からはちょっとキツイでしょうが、頭の中で「こんな感じかな〜」と、想像力をフル稼働させながら読んで頂ければなぁ〜、と。この小説の元ネタであるゲーム、超癒されるので、そういったものを表現できれば…って、出来てないような気がしますけどね^^; それでは!