閑話 レオナルドの微妙な疑問
伯爵は恭しく目の前の王太子にかしずいた。
王太子は、伯爵の眼前で椅子にしわりかしずく伯爵を見下ろす。
「殿下、良くぞご無事で」
感極まった様子で彼は王太子の足元にいざり夜。それを見下ろす王太子の目は冷ややかだ。
「確かに無事戻った。良くぞ迎えてくれたカラム伯爵」
唇だけに笑みを浮かべて彼は尊大に答える。
「本当に良くぞ迎えてくれた。かつて国を追われた時、伯爵が追走してきたときのことは未だに私は忘れていない」
カラム伯爵の床を這う手がそのままこわばる。
「本当によく私の前に顔を出せたものだ、かつて、サラザール大公が反旗を翻した折、いの一番に迎合した裏切り者」
凍りついた刃の言葉だった。
「私がわかってないと思っていたのか?国外からでも奴に迎合しているのが誰かぐらいは調べる伝はいくらでもある。それを知らないとは不幸なことだな」
淡々と、怒りを表面に乗せずに彼は呟く。
カラム伯爵が身体を跳ね上げて腕を振り上げる。
その袖から刃物が覗いているのを見ても、彼は驚かなかった。
「その程度の小細工か、相当追い詰められているな」
刃は王太子の腕に止められた。肉ではなく硬いものに受け止められた音がした。
「確かに、この袖は、者を仕込むのに便利だな」
そのまま相手の腕を掴むと、無造作に、立ち上がりながらその腕をひねり上げる。
「捕らえろ」
その言葉に背後の騎士が動いた。
手早く縛り上げられていく伯爵を見ながらレオナルドは溜息をついた。
「こんな安っぽい手でどうにかなると思っていたのかね」
「人間、都合のいいことばかり考えていると、どうしてこんなことぐらいって言う事態によく陥るからね」
傍観していたパーシヴァルが答える。
「しかし、君の情報網には本当に助けられた」
「情報網って言うほど大したもんじゃないよ、ただお爺ちゃんと文通していただけだし」
そして一つ付け足す。
「僕がどんなことを調べてほしいって頼んだら、それもお爺ちゃんにはいい情報源になったみたいだしね、ほとんど情報量をとられたことがないんだ、たとえ、孫でもね」
「一つ訊いていいか、君のお爺ちゃんって何者だ?」
真剣な顔で、パーシヴァルに詰め寄る。
「ただの雑貨屋の店主だよ」
パーシヴァルはお気楽に笑う。しかしレオナルドは何か納得できないものを感じたのか更に詰め寄ろうとする。
「まあ、サン・シモンの、グランデって街がちょっと特殊なんだよ、僕も数えるほどしか行ったことがないけどね」
パーシヴァルは遠くを見る目でそう呟く。
「まあ、このままカラバールを攻略して、晴れてサヴォワで戴冠できたら、どうしたってサン・シモンと付き合わなきゃならなくなるよね、その時にわかるよ」
今は考えてもしょうがないと思ったのか、レオナルドはそれ以上の追求を諦めた。
「まあいい、カラム伯爵の所領はここから近い、伯爵の身柄を押さえたあとは、居住地で色々と調べさせてもらう」
彼はテキパキと背後の騎士に指示を出していった。