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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
96/210

レオナルドの決意。

 レオナルドは、まず、民間人に化けた部下を多数、城下町に配備していた。

 首都カラバールは広大で、その南端は海に面している。

 海から一番遠い場所に、王城がある。そこがレオナルドの生まれた場所だ。

 王城の背後は山岳地帯に面している。

 そのあたりは、山の天辺、あるいは山自体を王城にしてしまったサン・シモンに似ているかもしれない。

 違いは、サン・シモンは、周囲を城壁で囲っているが、サヴォワは、開けているということだ。

 海洋交易はサヴォワの収入の三分の一にあたる、サヴォワは様々な大陸から物品を輸入し、そのサヴォワから、遠い海の向こうの物品が、今度は陸路で西大陸に縦横無尽に行きかう。他大陸との中継点とみなされる国だった。

 そのため、首都カラバールも港に面した街だ。その商業道路網は、広くまっすぐに伸びている。整然とした碁盤の目の街並みは、元々戦争というものに向かないつくりだ。

 元々は純粋な商業国家。軍備はその利益を守るためだけにあったはずだ。

 戦乱が収縮し始めたここ百数十年、サヴォワはその利益拡大だけを目的として繁栄してきた。

 海はサヴォワ、陸はサン・シモンと、商業ルートを分け合ってきたのだ。

 そして諸外国の文化を参照しつつサヴォワ独自の産業も開発してきた。

 レオナルドはふと考える。百数十年の繁栄が、たった十数年の戦乱で、潰えさりかけている。

 完全に潰えさせるわけには行かない。今ここで食い止める。ここで終わらせるしかない。もはや自分には失敗は許されない。

 市街地を制圧し、そして王城に攻め込む。そのための内部工作が今進もうとしている。

 戦乱に向かない街。だからこそ市街地を攻略すれば王城を攻め落とすのはたやすい。

 王城を攻め落としたあとは、父母の仇の首を取る。

 レオナルドは、暗い目で往生のある方向を見つめた。


 ミリエルは、甲板に出て、潮風に当たっていた。

「ミリエル、余り風に当たると、髪が痛む」

 女官としての忠告に、ミリエルは唇を尖らせる。

「だって海って初めてなんだもん」

 ミリエルは始めてみる海と船に好奇心を爆発させていた。

 サン・シモンでもリンツァーでも、海に連れて行ってもらったことはない。話に聞いていた時から、いつかは見てみたいと憧れていた。

 それが初めてでこんな大きな帆船に乗せられて、ミリエルがはしゃがないわけがなかった。

 甲板の縁にしがみついて、下を覗き込む。ミリエルは高いところを怖いと感じる感性に欠けている。マルガリータからしたら危なっかしいことこの上ない。

 ミリエルが船室にこもっていたがらないのも無理からぬ話なのだ。

 何しろ船室とは名ばかり、寝台が壁にくくりつけてあるだけでその上仕切りはカーテン一枚のみ。

 船は面積が限られているので、そのぶん居住性が犠牲になるらしい、

 長い航海となると、一月船で寝泊りすることも珍しくないと聞いて、囚人より待遇が悪いと、マルガリータは思った。

 ほんの数日の船旅だと言われた、正確な日数がわからないのは風任せだかららしい。

 それくらいなら、何度も野宿をしたことがある、ミリエルとマルガリータは楽勝と思っていたが、リンツァーから来た女官たちは不満たらたらだ。

 それを宥めるミリエルの姿はどっちが主だかわからない。

 ミリエルは真面目な顔で、リンツァーに送り返したいと呟いていた。

 そして舟の行き先を見るミリエルは、どうかカラバールで、まだ何も終わっていませんようにと祈っていた。


サヴォワは生粋の商業国家、サン・シモンは変則的な商業国家。リンツァーは農業国です。

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