マルガリータの諦念
このところ更新が滞りがちです。続きがなかなか浮かばなくなってきています。
気長にお待ちください。
幌付きの馬車に乗ってミリエルは、港町へと進んでいた。
あらかじめ逃亡用に、道の途中に馬車を隠してあったらしい。最初にのせられた護送車に似ているが、窓を大きくとっており、開口部も大きい。少々寒いが、その場合、フェルトの布の天幕を馬車の中に吊るし、その中で寒さをしのげるようになっている。
すでに季節は冬に近づいていて吹きっ晒しの幌付き馬車はかなり辛い。
ミリエルは歩いていくつもりだったが、馬車のほうが早くつくと周囲に言われそのまま馬車の上のクッションに坐っている。ミリエルは、マルガリータと同じく髪を暗い色に染められていた。
マルガリータの黒髪を、ミリエルのような淡い金髪に染めることは不可能だがその逆は簡単だという理由だ。
ミリエルとマルガリータは姉妹を名乗ることになっている。
たとえ髪の色を似せてもミリエルとマルガリータの顔立ち自体が違うのでかなり無理のある設定ではないかとミリエルは思っていた。
馬車の中でぼうっと風景を眺めるだけの時間は再び暇という拷問がミリエルを襲った。
今は図書室という暇を潰すアイテムもない。
そういえばあの別荘どうなったんだろう。
今頃は、あのラダスタン大公とやらの部下が略奪しているのではとふと思った。
馬車にはマルガリータも乗っていたが、仲良くおしゃべりという気分ではなかった。
そのまましばらく沈黙していたがとうとう耐え切れず、ミリエルはマルガリータに話しかけた。
「そういえば、荷物はどうしたの」
「最低限のものは持ってきたが」
気のない様子で、マルガリータは答える。
その様子にミリエルは少しじれたが、続けて尋ねる。
「あの荷物、どうしたの?」
ミリエルが何を尋ねているのか察したのか、マルガリータは苦笑しながら答えた。
「あれなら、置いてきた」
あっさり言われてミリエルは仰天した。マルガリータの荷物、それは背負うくらいの袋に詰め込まれた宝石類だ。
総額はざっと見た限りでも、ちょっとした家が買える。それもそこそこの人数が住める家が。
「ど、どうして置いてきたの、今頃はあの別荘は襲撃されて略奪されているはずよ、あの宝石もうとっくに盗まれているんじゃ」
「ああ、だろうな」
マルガリータはまったく気のない顔でそう答える。
「略奪し甲斐があるほうが足止めできていいんじゃないか」
ミリエルは頭を抱えた。マルガリータの経済観念は、サフラン商工会で鍛え上げられたミリエルの経済観念と決定的に相容れない。
「あれは、嫌な思い出の塊だからな」
その言葉にのたうっていたミリエルは我に返る。
「路銀は豊富なほうがいいから持ち歩いていたが、最終的に落ち着き先が決まれば、処分するつもりだった、ちょうどいいだろう」
マルガリータは妙に晴れ晴れとした顔で、笑った。
「落ち着き先は決まったの?」
ミリエルは狼狽したのをごまかすように聞く。
「ああ、次代の王妃付きに是非と、マーズ将軍から申し込まれた」
「そっか、よかったね」
ミリエルは緩んだ口元を隠すように顔を背け、他人事のようにそう呟いた。