破天荒少女3
あらかじめ捕まる者と逃げ延びて待ち伏せする者とに分かれての作戦だった。
待ち伏せ班は、貴市ではなく兵達で組織され、騎士が、一人その指揮を取っていた。
拘束されたラダスタン大公を掲げて合流してきた仲間に密やかな歓声と、そして呆れの混じった声が交錯した。
ミリエルは、それらを横目に見ながら、へたり込んでいる女官に、話しかけていた。
「姫、これどうします」
そう言って騎士の一人がラダスタン大公を指差す。
「そうね、とりあえず、いざという時のためにとっておきましょう、もし役に立たないなら適当な川にでも放り込んで厄介払いすればいいわ」
面倒くさそうにそう言うと、ミリエルはラダスタン大公をつくづくと見る。
「そうだわ、ズボンを剥ぎ取って適当な布を腰に捲かせなさいよ、だって御不浄を使いたいって言われても、拘束を解くわけには行かないし、それなら最初から穿かせなきゃいいのよ」
「ええと、それはちょっと非道では」
マルガリータが思いっきりひいた顔でたしなめようとする。
「でも、それじゃ、そのたびにズボンの上げ下ろしをしたいの?」
そう言って騎士たちの顔を見た。
全員顔を横に振った。
「じゃ、決まりね」
ミリエルは朗らかに笑う。
世にも情けない顔をしているラダスタン大公を見てマルガリータは思わず顔を背けた。
恨むなら、お姫様という固有名詞だけでミリエルという少女を判断した己の愚かさを恨んでくれと心の中で祈りながら。
そうこうしているうちにもう一段落あった。
騎士の一人は、深い森を掻き分けて、レオナルドの待つ首都カラバールへと向かう。
そこで事情を話し、港町の隠れ家に潜伏するミリエルへ迎えを出す算段をする。
ミリエルたちはその気氏の後姿を手を振って見送った。
あの騎士の道行きは、相当厳しいだろうし、ラダスタン大公の私兵達の残党もかわさねばならない。
その背中を見送って、ミリエルたちも進み始めた。
レオナルドは首都カラバールへと向かう準備に忙しかった。しかし、早馬の知らせを耳にすると、眉間にしわが寄った。
今まで動かなかったラダスタン大公が、今所有する土地を離れているというのだ。
ラキスタン大公がこの十年動いたことはない。常に中立の立場に立っていた。しかし、中立ということはいつどちらに転ぶかわからないということでもある。
ラキスタン大公が、どちらかの勝者に付こうと考えているならよし、しかし両者共倒れを狙って打って出てくる可能性も否定できない。
レオナルドは報告書を握りつぶしながら、その可能性を探った。
「まさか、ミリエルを狙ってるってことはないよね」
脇からパーシヴァルがそんなことを言い出した。
「どうも妙なデマが飛び交っているらしいんだ。ミリエルを得ればサヴォワの王座に近づけるって言う。いくらなんでもそんな筈無いんだけどねえ」
パーシヴァルは最初その話を聞いたとき、笑ってしまった。
ミリエル自身はサヴォワ王家の血を一滴も受け継いでいない。
ミリエルに流れているのは、主にリンツァー王家と、サン・シモン王家が少々。お姫様なら何だっていい訳じゃないのにねと。
しかし、それなりに根拠があってそんな噂が流れているのだとすれば。
レオナルドの血の気が引いていった。
レオナルドは書くたびに可哀相になっていきます。