めくれた薄皮
最初に、異変を感じ取ったのは、パーシヴァル付きの騎士だった。
彼は、パーシヴァル付きの騎士の仲でも古参で幼い頃からパーシヴァルに仕え、その境遇の複雑さに付き合ってきていた。
そのため機を見るに聡く目端が利いた。
大きいといっても季節ごとにしか使わない別荘。一回りするくらいならさして時間はとられない。それによって、彼は、今現在取り囲まれていると判断した。
即座にもう一人の騎士に知らせた。
「私はミリエル姫に伝えに行く。お前は何とか脱出してパーシヴァル様のところへ」
最初からいざというときの役割分担は決まっていた。
ミリエルの部屋の前には、最近雇われたばかりの大柄な女官が立っていた。
その女官に手短に事情を話せば女官は無言でその場を譲った。
話を聞いている間、ミリエルは無言だった。
小さく俯いたその顔が、再び上がったとき、ミリエルは、毅然とした表情で、彼に向き直った。
「こちらの兵力はどれくらいなの、それと、装備は?」
その口調はきびきびとしてよどみない。
「騎士は十人、兵士が、二十人ほどですそれぞれ体験しており、弓矢も人数分ございます」
「篭城は、長時間は無理ね」
ミリエルは、そう言うと、椅子から立ち上がりマルガリータに声をかけた。
「マルガリータ、女官たちにした働きの女達に服を借りさせろ。直ちに着替えろと、無論お前もその女官のお仕着せから着替えろ」
断固とした命令者の声音で一息に言った。
マルガリータは即座に身を翻した。
「姫もお召し替えをなさるので」
「私はあとでいい、いざという時、何があるかわからないからな」
そのいざという時って何だと彼は問い返したかったが、ミリエルは再び椅子に坐る。
女官の一人が青ざめた表情で、飛び込んできた。
「ミリエル様、敵襲とは」
「話を聞いたなら私の命令はわかっているはずだ、こんなところでぐずぐずしてないで、さっさと着替えろ」
腹に響く怒号だった。
風に吹かれたように女官は泡をくって再び駆けさっていく。
「まったく、サヴォワにくると命じられたときにこういう覚悟は決めていたんじゃないのか」
そう愚痴ったがいつまでもそうしてはいない。
「見張りの兵に命じろ、それと、非戦闘員はまとめて置け」
きびきびと動じることなく命じるミリエルに騎士は一礼した。
「かしこまりました」
騎士が出て行ったのを確認して、ミリエルは爪を噛む。
「しくじった。このあたりの見取り図を確認しておくべきだった」
今更言ってもしょうがない。そもそもミリエルを自室に軟禁状態に置いたのは、あの女官たちだが。
「やっぱり、誰がなんと言おうと、外に出て様子を見ておくべきだったか」
その溜息は苦い。
そのミリエルのもとに、騎士の装束をまとったマルガリータが戻ってきた。