人生を賭ける節目
あけましておめでとうございます。
レオナルドは首都カラバールの隣の地に陣取っていた。
これから、自分のもとに静かに、しかし着々と主と奪還のための軍勢が集まりつつある。
もうじき冬がやってくる。本格的な冬が訪れる前に決着をつけねばならない。
何度も軍隊の長と話をし、また軍勢を養う兵糧や、物資、武器の手配の様子を抜かりなく確かめていた。
「慎重になるのもわかるけどね」
そう言って、パーシヴァルは書類を睨むレオナルドを諭す。
「確かに、君の幼い頃の後見人が、手柄を焦って無駄な進攻をして大損害を与えた。だから今度は失敗できない、その気持ちはわかるよ。でも、それでがちがちになったら別の意味で危ないんじゃないか」
レオナルドはパーシヴァルを睨みつけた。
「君も愛しの妹君と一緒にいればよかったんだ」
言われたパーシヴァルは苦笑する。
「僕は別にミリエルといられなくなって拗ねてるわけじゃないよ、純粋に君の余裕のなさを危惧してるだけだ」
それは余計に悪い。そんなことを言いたくなった。
「それに僕は陛下から君の相手をおおせつかっているし」
「監視の間違いだろう」
パーシヴァルは苦笑した。
「それも事実だけど、でも君との友情も本当のつもりなんだよ」
ふざけた言い様だが、レオナルドもそれは疑っていなかった。サヴォワが監視役をつけるなら友人である彼をというのはある意味気遣いだとも思っていた。
彼ならそれほどレオナルドを不利な立場に追いやったりはしない。
「でも、どうしてミリエルを置いて行ったりしたんだ」
純粋に疑問に思っていることをパーシヴァルは尋ねた。
か弱いお姫様は足手まといだ。というのは単なる一般論だ。
か弱くないお姫様だということはすでに彼も飲み込んでいるはず。
「彼女がか弱くないということを知っているのはほんの数人だけだ。だから、か弱いお姫様の存在は士気に関わる」
「でもそれで返って奮い立つケースもあるよね」
パーシヴァルがそう指摘したが、レオナルドは頑として言い切った。
「ミリエルは首都奪還がすんだ後に迎えに行く」
決意のにじんだその表情に、パーシヴァルは説得をひとまず諦めた。
自分の仕事を持って自室に戻ったパーシヴァルは執務机に懐いていた。
「閣下、そのような格好をされては」
古参の部下、確か自分に最初に付いた騎士だった相手がたしなめる。
確かに最初に彼が来たとき自分はまだ十を過ぎたばかりの子供だったが、それでもこういう態度をとらなくてもと思う。
「せっかく妹と睦まじく暮らせると思ったのにな、どうせすぐお嫁に行くんだから今ぐらいって思っても」
うじうじといじける上司に相手は容赦ない。
「ならばあの別邸に残ればよかったのでは」
「だって仕事があったんだよ」
「そう、最初に仕事を選ばれたのは閣下です、男なら自分の選んだことに最後まで責任を持ちなさい」
いわれてますます机に沈み込む。
「あの子だって寂しがったり心細がったりしてるんじゃないかと思うと心が痛む」
「どちらかというと、腕がなまると泣き暮らしているのでは」
自分抜きで最終決戦をやらかそうとしていると知ったら金切り声を上げて泣き叫ぶだろう。
自分にも殺らせろと。
眦を吊り上げて凶器を振り回す姿までありありと想像できる。
「誰か用意しといてよね、鬱憤を溜め込んだあの子のために、適当な生贄を」
パーシヴァルの言葉に不本意ながら頷かずにいられなかった。