表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
85/210

騎士と傭兵のパラドックス


 木々の梢に小鳥が遊び、風はほんのりと冷たい。

 この別荘には温泉が付いていて、使う水もほのかに温かい。

 水仕事をするときには都合がいいと、使用人たちには好評だ。

 マルガリータは、最近では手馴れてきた雑用を黙々とこなしていた。

 騎士ではなく、女官としてミリエルに仕えることになったのは、いざというときには盾になれるようにとのことだろう。

 騎士では、付いて行ける場所に限界があるから。

 図書室に入ると、ミリエルのご要望の書物を探す。

 ミリエルは、読書をするときも、恋物語や詩集などは頼んだことがない。いつも実用一点張りの専門書ばかりを読む。

 織物図案集と紡績の歴史、どちらを持っていったものかとしばし悩んだが、二冊まとめて持って行くことにした。

 どのみち図書室で読書をしようなどと考えるのはミリエルだけだ。それなら二冊持って行ってもかまわないだろうと。

 かなり大判の本を抱えて廊下を歩く。

 ここは嘘のように静かだ。

 王太子にここに逼塞する際聞いた話だと、この種の別荘は、複数あるし、全て辺鄙な場所にあるので、居所を突き止められる可能性は低いのだとか。

 この規模の別荘が複数。

 マルガリータはつくづく王室というものの財力に呆れ返った。

 使用人といっても、ミリエル一人のことなので、最低限。

 すべての部屋が使えるようになっているわけではなく。ミリエルの使う主賓室以外は、使用人用の大部屋を二つだけ。本来は五つの使用人室がある。客間も、ミリエルの部屋に近い物を数室。高級女官用に使えるようにしてあるが、他は、埃よけの布がかかったままだ。

 ミリエルが別荘入りする二日前に大掃除で、使えるようにしたらしい。

 持参してきた食料の量を考えると。あと一月はここで過ごすことになりそうだ。

 そんなことを思いながら、マルガリータはミリエルの部屋に戻った。

 ミリエルは本を受け取るとタイトルを確かめ、紡績の歴史から読み始めた。

 ミリエルのもとに、いまだ王太子からの連絡は来ない。

 そして積み重なるミリエルのストレス。

 ミリエルは字を追うのに没頭しているように見える。しかし、それでもつい思い出さずにはいられないのは、クライストのことだ。

 ミリエルを殺そうとしたクライスト。最初から、反王太子派に雇われており、ミリエル姫を暗殺するのが任務だったとあとで聞いた。

 クライストがマルガリータに声をかけたのは、マルガリータが異国とはいえ男爵令嬢として生まれていたからだった。

 貴族出身というものは、同じ貴族に対して絶大な効果がある。最初からクライストはマルガリータを隠れ蓑に使うつもりだった。その事実に気付かなかったことは、マルガリータの誇りを少々傷つけた。

 それ以上に、他の傭兵に付き添われて、涙目で送り届けられたミリエルの様子が忘れられない。

 今の平和は見せかけ、いずれことが起きる。

 平和を教授できるのは今だけかもしれないのだとミリエルに言い聞かせたいが。今のむっつりと黙り込んだミリエルにそれで説得できる自身はない。



年内の投稿はたぶんありません。年末年始ですし、パソコンを開く余裕があるか怪しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ