サン・シモンの大祭 6
そして、ミリエルは、初出場にして、準決勝の手前まで勝ち進んだ。
女性の、そして最年少記録を二重に更新した。
そして、最後の試合で鎖骨を折りながら団体戦に出場。こちらは見事に優勝した。
十人対十人。特殊部隊組みは男女混合で、半分は女性だったが、この試合を見る限り、女は確実に残酷だと言うことが理解できた。
その女性達こそミリエルとともに痴漢被害にあった女性達だった。
だから対戦相手は、ジェフリー・モーガンを呪う立派な資格があった。
最年少の彼女が団体の司令塔を務めていた。
この日、特殊部隊の水の天使は、知らぬものはないほどの有名人になった。
「まあ、ちっちゃな女の子ってだけで、いろいろ目立つが」
かわいらしい少女が、大の男を手玉に取る、ある意味では痛快な見世物だった。
「それで、残念ながら拾える人材はいないと言うことになるね」
目の前の将軍は、テーブルにひじを着き、溜息をつく。
大祭の無事終了を祝う祝賀会。彼もワイングラスを手にしていた。
「まことに残念だよ。スティーブン・ウォルバーグ。唯一光っていたのはあの少女のみとは」
サフラン商工会は、完全に軍事と縁を切ったわけではなかった。
こうした武術大会で逸材とみなされれば、奨学金つきで、士官学校に入学もよくあることだった。
しかし、サン・シモンの騎士団は男子のみ、いかに有望でも少女は問題外だった。
「あの残念な逸材、もし男子ならば私は喜んで養子縁組を申し込んだんだが」
向こうで断るだろう。そう思ったが彼は黙って頷いた。
さすがにこの場にミリエルはいない。お子様な彼女は親に連れられて、家に戻った。
「残念な逸材か、確かに」
そう背後で呟く誰かがいた。振り返ったとき、すでに複数の貴族達に混じってそれが誰か特定できなかった。
ミリエルは、自宅のベッドで鎖骨骨折の療養中だった。
最後に戦った相手は、思った以上にすばしこかった。大振りしたその隙を突いて、懐に入り込まれた。もみ合いになればミリエルが不利、しかしそれでも倒れるとき、相手の足を払い道連れにしてやった。その上、相手が倒れる下敷きになった際、肘を突き出して鳩尾をえぐってやった。
相手の重量で鎖骨を折ったが、ミリエル的には相打ちのつもりだった。
女子控え室に戻ると、まだ扉の前に誰かが立っていた。まさかまたと思ったが、健闘を称えてと言って篭を渡された。
篭には焼き菓子が入っている。
つまみ食いをした友達も、普通に食べていた。
正真正銘の贈り物らしい。
そのお菓子は今枕元にある。
「まあ、いい日だったかな」
ミリエルは目だけで微笑んだ。
ここからまた数年後に飛びます。