化けの皮はがし2
扉の前で、中の様子を伺う。
「あー、そろそろ佳境だね」
パーシヴァルは、扉に顔を近づけて中の様子を伺う。
「そろそろ出番だけど、いいの、ミリエル」
ミリエルは無言で頷いた。
ふと、扉の前で、物凄く何か言いたそうな顔をしているマルガリータに気付いた。ミリエルはまず人差し指を唇に当ててそれから小さく笑った。
レオナルドはかすかな衣擦れの音を聞き取った。
どうやら役者がそろったようだ。
「ではサザウィー男爵、この偽者をミリエルと偽り、娶れとおっしゃる?」
「それが一番状況をまとめられると思われます。それに私少々調べましてね」
サザウィー男爵はニタリと笑う。
「ミリエル姫は、幼少期リンツァーを離れ、それから最近まで隣国サン・シモンでお育ちとのこと。ならばその容姿を知るものも、そして個人的な知り合いもほとんどいない。ならば少々入れ替わったとしても、気付かれる恐れはほとんどありませんぞ」
まくし立てるサザウィー男爵をレオナルドは冷たい目で睨む。
「それで、もし本当のミリエルが見つかったときはどうする、偽者を自分と遇していたと彼女が知ったならどうなると思う」
「小娘一人くらい、どうにでもなるでしょう」
「つまり、本物がいたとしても、あくまでこの偽者を本物として遇せと言い張るのだな」
レオナルドはそのままサザウィー男爵を睨む。
「あくまで、自分の娘を王妃として扱えと言い張るのだな」
その言葉に、背後の領主は硬直する。
「サザウィー男爵、それではまるで簒奪ではありませんか」
震える指で、ベールの女を指差す。
「簒奪、何のことですかな、王位につくのは正当なる王レオナルド様、ならば王妃の出自など些細なことですよ」
「そして、正当な王の弱みを握るというのが目論見か、サザウィー男爵。本来のリンツァー王の姪にして養女ミリエル姫の身柄が脅迫内容ということになる」
「しかし要求を呑むしかない、何故ならミリエル姫はもうこの世のものではないのだから」
「ミリエル姫に、何か仕掛けたのか」
「まさか、行方をお探し申し上げただけのこと、しかし、これだけ探してもどこにもいないなら、もはや生きてはおるまいと判断したと手間違ってはいないでしょう」
「残念ながら、間違っている。ミリエルはすでに私の手に戻っているのですよ」
意外な言葉にサザウィー男爵と背後の領主も仰天した。
「どこにいるというのです、そのミリエル姫が」
「今、ここに来ています」
そして、扉が開く。
「お初にお目にかかります。サヴォワ王国王弟、パーシモンの長男、パーシヴァルと申します」
最初に扉を開けたのは、金髪の麗しい貴公子。そしてその背後に女官が立ち並び、その真ん中に金髪の小柄な少女が建っていた。
「ミリエル・アレクト・リンツァーと申します」
そして少女は恭しく、貴婦人の一礼を取った。
「それで、サザウィー男爵、このミリエルをどうするべきかな、それともミリエル、このミリエルを名乗る女性をどうしたい?」
いきなりそれか、とミリエルは息を呑んだが、それでも取り繕って笑みを浮かべる。
「殿下、それは殿下がお決めになることですわ」
しとやかに、ミリエルはレオナルドに寄り添う。
そして、扇で顔を隠しながらそっと、コンスタンシアの方を窺った。
とっくに取り乱して半狂乱になっているかと思ったが、コンスタンシアはいたって静かだ。
あるいは坐ったまま気絶しているのか。
その時、背後から駆け込んできたものがいる。
「違います、この女は、さっきメイドの格好をしていたんです」
そうまくし立てたのは、さっき部屋の掃除をしていた。雀斑の少女だった。
74話に痴話げんかと仲直りを挿入しました。