化けの皮はがし
レオナルドは一言そういうと、サザウィー男爵の出方を待った。
サザウィー男爵はにこやかな仮面を被りレオナルドを凝視している。
「何が言いたいのですか」
「確か、男爵は、少々前にご息女を亡くされたはずだ。確かにご息女は亡くなったのですか」
レオナルドは側近の部下に、密かにサザウィー男爵を探らせていた。
しかし、サザウィー男爵に近づいた物はおらず、ただ、十代半ばの娘の葬式が最近あったということ。それがミリエルを発見したというサザウィー男爵の声明と前後している。そこにかけた。
レオナルドは、密かに、その娘、コンスタンシアの墓を暴くように部下に指示した。
ミリエルも、偽者に仕立てられた娘の名はコンスタンシアだといっていた。
ここにいるのは、サザウィー男爵の次女コンスタンシア。それで間違いないはずだ。
レオナルドは厳しい目で二人を見た。
「サザウィー男爵正直に話せば私としても厳罰に処するつもりはない。数少ない味方を減らしたくはないからな、しかし、あくまでシラをきりとおすならばこちらとしても相応の手段をとらせてもらう」
背後でこの館の領主が、動揺している気配が、見なくても十分にわかった。
丁重にもてなしてきた王太子妃が偽者だといわれればどういう反応をするか、それを知るのにさしたる想像力は必要なかった。
何か言おうとしているのだろうが、喉に張り付いて声にならないようだ。
そしてコンスタンシアは何も言う気配もなく微動だにしなかった。
そろそろ頃合だと覚悟を決めていたからだ。
いかにも甘く囁く王太子の目が笑っていないのに気付いたのは何度目の邂逅の時だっただろうか。
いや、即怪しまれると今の状況を読めないほどコンスタンシアは愚かではなかった。
おそらく最初から気付いていた。そしてリュート云々は自分を引っ掛けるためにわざと言っていただけだ。そのくらいの判断はできた。
「偽者ですと、ならば本物はどこにいるというのです。リンツァー国王に、貴方の下された姫君がどこにいるかわからないとおっしゃるおつもりで」
サザウィー男爵が勝ち誇った声音で言った。
「本物のミリエル姫を出すことができない以上、これが本物のミリエル姫なのです」
「なるほど、開き直ったか」
そして背後を振り返る。
「今の言葉、言質として証人になってもらおう」
レオナルドは背後で絶句している領主にそういった。領主はカラクリ人形のように首を前に振ることしかできない。
扉の前でマルガリータは困惑していた。扉の前に立っていると聞く気がなくとも中の話は丸聞こえになるのだ。
聞いてしまった内容はとてもおおっぴらに吹聴できるような内容ではなく。うすうす予感したことではあっても。それが真実だと断言されると、また別の感慨を覚える。
今は聞かなかったことにしてほうっかむりを決め込もう。そう決意して、扉の前から少し身を離した。
その時、ひそやかな衣擦れの音がした。
地味な女官のお仕着せを着た女達、その背後に、煌びやかな衣装をまとった少女が歩いてくる。
その一団が扉の前で止まったとき。一番豪奢な衣装を着た少女の顔が見えた。
濃い目の顔料で顔を彩っていても、マルガリータは厚化粧だった姉を見続けたため、どんなに厚化粧をしても、その下の素顔を見通すという特技を持っていた。
元々薄い唇をてらてらと光る紅で塗りつぶしていても。それが誰か容易にわかった。
マルガリータの困惑は先ほどの比ではなかった。