閑話 レオナルドの苛立ち
レオナルドはいらいらとその様子を見ていた。
ミリエルが黒髪の騎士のもとになにやら料理の載った皿を届けている。
にこやかな笑みを交わす二人を横目に足早に自分にあてがわれた客間に戻る。
「どうしたんだ、王太子殿下は」
「さあ、どうしたんでしょうね?」
ミリエルも不思議そうにして、ほとんどミリエル姫の警護に付きっぱなしのマルガリータに軽食を届けながら。何で睨まれたんだろうと怪訝そうだ。
レオナルドにあてがわれた部屋には、すでにパーシヴァルが入っていて帰ってきたレオナルドに笑いかけた。
「なんかあったの、機嫌が悪そうだけど」
「もしそうなら原因の一端は君にあると思うが」
ミリエルと接触したと伝えたとき、彼は驚かなかった。すでに知っていたと答えられたときの憤りは、今も胸にくすぶっている。
「だってちょうど行き先だったもの」
と答えられたときはどうしてやろうかと思った。
「ミリエルが妙にあの騎士と仲良くしてた」
「ああ、迷子のミリエルを保護してくれた人だろう。僕もあとでお礼を言わなきゃ」
のほほんとパーシヴァルは答える。
「そういえば、なんなんだあの特技は」
ミリエルのモーニングスター捌きを始めてみたレオナルドの感想だった。
あの時は平静を装っていたが、顎が外れるかと思った。
「サン・シモンの伝統技能だよ」
「あんな物騒なもん、伝統で伝えるな」
レオナルドの雄たけびにパーシヴァルは人差し指を口に静かにと諭す。
「仕方ないよ、母上は、リンツァーからサン・シモンの国境を越えるまで何度も刺客に襲われて、それをあの伝統技能で乗り切ったんだから」
そう彼の母アマンダは当時乳飲み子だったミリエルを抱え、幾多の死線を切り抜け、サン・シモンのグランデの実家に辿り着いた。
「そんなお母さんからどうしてお前みたいなのが生まれたんだ」
心底それは疑問に思う。
「氏より育ちって本当なんだねえ」
細く長い繊細な手を光にかざす。この場合意味が逆な気もしたが、パーシヴァルは平然としている。
「それで、これからどうするの」
「ミリエルが見つかった以上ここに長居する理由があるか」
レオナルドはすでに次の局面を見ている。
「ああ、例の男爵の片を付けたらすぐに戻るわけね」
パーシヴァルもそれは心得ていたのか驚かない。
「あんなもん、これ以上見てられるか」
あんなもんという形容詞に付随する存在の片割れが実は女であることをパーシヴァルはすでに知っていたが。それを今言う気はなかった。
そのうちミリエルあたりが自分で伝えるだろう。
「ま、しばらくやきもきさせとくか」
パーシヴァルは含み笑った。
パーシヴァル、根性どどめ色です。