再会
それは平均的な地方領主の館に見えた。
そしてその周囲をマーズ将軍率いる部隊が駐屯し、周囲に天幕が張られている。
マーズ将軍は恭しく王太子を出迎えた。
「ご苦労だったな」
マーズ将軍はさして体格に恵まれているほうではない。彼は純粋な頭脳派の軍人だ。無論軍人としてのたしなみとして、最低限の武術は身につけているが周囲の軍人達よりこぶしひとつ分くらい小柄だ。
その副官も細身で、さして強そうには見えない。彼の場合は見かけによらずで相当の剣術の達人だ。
王太子レオナルドは長身だが体格は平均といったところ。その三人が、堂々たる以上部に取り囲まれて進んでいく。
その背後では、レオナルド護衛騎士と忠誠を誓った貴族の一部が一列に並ぶ。そして、その最後尾にパーシヴァルとその配下達も付いていっていた。
「まずはミリエル姫のご機嫌を伺うか」
レオナルドは皮肉に唇をゆがめた。
マーズ将軍も苦笑する。何しろ余りにもわかりやすい偽者だったから。
あのわざとらしいベールで疑われないと本気で思っているのだろうか。
「その前にお耳に入れたいことがございます。実は」
そう言ってミリエル姫に面会を申し出た貴族の一部がミリエル姫の暗殺を試みたことを伝えた。
「まあ、それは阻止してもらってよかったが。何しろミリエル暗殺なんて情報が広がったらそれはそれで厄介だからな」
レオナルドはそれは受け流す。しかし、リンツァーがサヴォワ侵略をたくらんでいるという噂が広まっているのはこれからの計画に更なる支障が出そうだ。
そんなことを考えながら、ミリエル姫にあてがわれた部屋に通された。
まず最初に出迎えたのは黒尽くめの騎士だった。
騎士は無愛想に一礼して、扉を開ける。
扉の向こうにいたのは、最初はおそらくこの館の女中達。そして、サザウィー男爵家の女中が二列になっていた。
そして部屋の中央に置かれた椅子にベールを付けた女が坐っていた。
レオナルドは薄く笑ってその椅子に近寄ると手の甲に口づけする。
「愛しい人、どれほど久方ぶりでしょう」
情感たっぷりにそう囁いた。
コンスタンシアは、全身冷や汗でびっしょりだった。どうやらいきなり偽者扱いはしないらしいが、いつ気が変わるかわからない。
王太子は、久しぶりに会った恋人に対する睦言を延々と囁いている。自分はただ無言で頷くことしか出来ない。
「あなたのリュートが忘れられなかった。またあの曲を奏でてくれますか」
その言葉に、元々下がっていたコンスタンシアの血の気が一気に引く。
貴族の娘は嗜みとして、楽器の演奏を習う。しかしコンスタンシアが習ったのはフルートだった。リュートは触ったこともない。
ぼろが出るから一言もしゃべれない、というか、婚約者同士なのにベールをとりもしないって普通おかしがるだろう。
その背後、女中達の隙間から、ミリエルが冷ややかな眼差しを送っていた。