かみ合わない思い
レオナルドは馬上で思索にふけっていた。
周囲を騎士に取り囲まれ、何も考えなくとも、前に進めば目的地につくと言う状況だからできることだ。
すぐ脇の馬車では、友人が、書類をめくっている。
彼は彼で仕事がある。
色々と情報網を駆使して、今向かっている館の情報を集めていた。
サウスバルトの館は、本来ならば、もう少し跡に向かうはずの場所だった。
サヴォワの南端に位置し、首都カラバールから外れた場所にある。
無論敵の首魁は首都カラバールに陣取っている。そして、少しでもそれを攻略しやすい場所に本拠を置きたいレオナルドにとって、さして重要視されない土地だった。
しかし、そこにミリエルがいるという。
ミリエルが、行方をくらまして、早一月になろうとしている。
その間情報は一切入ってこなかった。
あの時自分が馬車に乗っていれば、どれほど後悔しても足りない。
かなり信憑性が低いとはいえ、ミリエルの行方を指し示す唯一の手がかりだ。逃すわけには行かない。
覚えているミリエルは、人形のような少女だった。
表情が乏しくて、それでいてはっきりと物を言う。
なまじ整った顔をしているが、それ以上の感慨を呼び起こさない顔だと思った。
最初は。
しかし、表情が動かないのは余り物事に動じない肝の据わった少女なのだとわかった。物事に動じることを自分に許さない厳しい考え方をする少女なのだとも。
その精神のありようはどこか悲しいものがあった。
自分といる時は、いつも何かを耐えている。そのことが少し悲しいと思った。
ぐるぐるとミリエルの顔が浮かんでは消えた。
その知らせが、届いたのはその日の早朝だった。ミリエルは、自分にあてがわれた部屋の掃除をしてから朝食をとりに行く予定だった。
王 太子がもうじきこの館に到着する。ミリエルにとって待ち望んでいたのか、それとも先延ばしにしたかったのかわからない知らせ。それを何故か部屋の前に立っていたクライストがこっそり教えてくれた。
クライストに対してミリエルは違和感を覚える。
いままでこんな風にミリエルに話しかけてくることがあっただろうか。クライストの態度の変化にミリエルは薄気味悪いものを感じた。
雑巾を片付けると、ミリエルは手を洗って、食事を調達に調理場へと向かう。
料理を盛ったトレイを二つ持ってまずマルガリータの部屋に向かう。
ドアの前で声をかければマルガリータはすぐに扉を開けてくれる。そしてさっきクライストが来たと告げると意外そうな顔をした。
「私のところにはまだ来ていないぞ」
トレイを受け取りながら呟く。
「ミリエル、気をつけろ」
この時、マルガリータは、初心な少女が悪い男に騙されないようにという意味で言っていた。
しかしミリエルはそれを襲撃に気をつけろという意味にとった。
ミリエルは表情を引き締めて頷く。
「もちろんです、マルガリータ様」
やはり、モーニングスターは敵の襲撃がなくとも身近においておかなくては。
決意も新たに誓う。
「それで、王太子は、明日この館にたどり着くわけか」
ミリエルからもたらされた情報にマルガリータは、明日の予定を立て始めた。