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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
68/210

望まれない客。

 その日、来客があった。

 サザウィー男爵。王太子派を名乗る貴族の仲で中堅くらいに位置する人物だと言う。

 ミリエルは部屋の隅でその様子を観察していた。

 恰幅のいい中年男。この館の領主もそうだが、この国の男は中年を過ぎるととたんに恰幅がよくなるのだろうか。

 日に焼けた赤ら顔に、笑ったような垂れ目。しかし、笑っているように見えるだけで、その細い目の奥に光る目はけして笑わない。

 その下膨れの顔も、いかにも福福しいが、ミリエルには先入観のせいか胡散臭く見える。

 コンスタンシアの話を信じれば、これがコンスタンシアの父親らしいが似ても似つかない。

 どうしてこの強烈な顔から特徴がないのが一番の特徴と言う娘が生まれるのだろう。

 まあ、この強烈な父親にスポイルされてしまったのがコンスタンシアなのだろう。

 いかにも自慢たらしく、姫君を救い出した経緯を滔々とまくし立てる。ミリエルからしたら噴飯ものだ。

 コンスタンシアは、ただ無言を通している。そしてサザウィー男爵はそんな娘を咎めもしない。

 或いはうかつに喋ることでぼろが出るのを恐れているのかもしれないが。

 そして胡乱な視線を向けているのはミリエルだけではなかった。

 いかにも感心している風を装っているが、マーズ将軍の視線は冷たい。いや将軍のみならずその側近も彼を疑いの眼差しで見ている。

「サザウィー男爵、そちらの女騎士殿に礼を言うべきであろうな、何しろミリエル姫を身を盾にして守ったのだから」

 そう言ってマルガリータを指し示す。

 女騎士の言葉に一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、瞬時に満面の笑みをこぼれさせる。

 その反応の速さにミリエルはますますしらけた気分になった。

 作り笑いをするのが習い性になっているのが見え見えだ。

 結局恐ろしく身にならない会見が終わって、ミリエルは疲労を覚えて自室に戻った。


 狭い小さなベッドとそのベッドとどっこいの床しかない小さな物置小屋の成れの果てのような部屋に戻ると、ミリエルは、ぐったりと寝台に横になった。

 もういい加減にしてほしい。

 領主や、マーズ将軍に本当のことを言う危険は冒せなかった。

 何しろ証拠は、懐の指輪一つ。その指輪を見せたところで、盗んだだのと言いがかりを付けられて、取り上げられてしまってはかなわない。

 何しろ女中仕事の手際が良すぎた。

 日頃母親の手伝いをする良い子だったのが災いした。

 コンスタンシアのことを考えると憂鬱になった。

 結局背負い込んでしまった。おそらく少々だが自分より年上の女の人生を。

 つくづくグランデにいるときは、自分は祖父に甘えていたし、祖父のコネで人生楽してきたんだと思い知った。

 ウォーレスには頼れない。今更マルガリータにも本当のことは言えない。

 どんどん自分を袋小路に追い込んでいる気がしてきた。

「早く来なさいよ、そしてあたしにけりをつけさせて」

 ミリエルは年に似合わない、疲れた表情で、胸に下げた指輪を握り締めた。



今日、実家から40センチの鰤が届きました、三枚におろして醤油に漬けるのが精一杯。焼く気力はありませんでした。台所はスプラッタ。掃除が大変でした。ですので少し短くても仕方ありません。

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