王太子の代理人 3
コンスタンシアはベールごしに、マーズ将軍と面談した。
傍にはマルガリータとミリエルが控えている。
そして元々自分の配下であるはずの侍女達ははるか後方に控えている。
そう、こんなこと成功するはずがないのだ。そんなことは侍女達ですらわかっている。コンスタンシア自身が思ったように。
マーズ将軍は表面上は恭しく、コンスタンシアの手をとった。
「お目にかかれて光栄です妃殿下」
コンスタンシアは頷くことで返事として再び椅子に坐る。
その一連の詳細をミリエルは凝視していた。
猶予があるというミリエルの言葉に、コンスタンシアも多少の余裕を見出したようだ。
すべての黒幕はコンスタンシアの父親だという言質は夕べ取った。しかしミリエルは納得していない。
もう一つぐらい裏があるかもしれない。
コンスタンシアは、でしゃばらず殿方の言うことに盲従せよと言う貴族のお嬢様教育を何の疑問もなく受けてきた少女だ。
それ以上のことを知っているとは思えない。つまり糸は途切れてしまった。
難しい顔をして考え込むミリエルをマルガリータは横目を使ってちらちらと見ている。
もしかしたら、ミリエルは自分が思っているより、はるかに大きな厄介ごとを抱えているのかもしれない。それはほぼ確信に変わりかけた疑いだ。
面談は粛々と終わり、当たり障りない会話で終始した。
その日以来、マルガリータが呆れるほど、コンスタンシアは、ミリエルを傍から放そうとしなくなった。
ミリエルも、表面上はにこやかにコンスタンシアに話をあわせている。
どうしてそうなったのかマルガリータはミリエルに問いただしたがミリエルは頑として話そうとしない。
ただミリエルは時が来れば必ず話すとそう言いつづけるだけだった。
かいがいしくミリエルは立ち働き、マーズ将軍にも節度をとってそれでいて親しく接するようになった。
「なんか変ですよ、あのお嬢さん」
副官の言葉をマーズ将軍は不思議そうに聞いた。
「どこが変だ?」
「聞いた話だと、あのお嬢さんはミリエル姫が来る前に、あの女傭兵とここに来たそうです。ところがいつの間にかミリエル姫の側近の立場をあの女傭兵と築いている」
「傭兵に女は一人しかいないから選択の余地がなかったんじゃ」
護衛に女が使えるならお姫様に合わせるならそれが一番いいと思った。
それが領主の言い分だ。
それ自体はそれほど違和感を覚える内容ではなかったので。そのまま聞き流していた。
「その話、すべてあのお嬢さんがまとめたそうです」
言われた内容に少々驚く。きょろきょろと王太子の姿を探していたいかにも軽はずみな好奇心いっぱいの少女に思えていたのだが。
「そうそうあのお嬢さんの名前も、ミリエルだそうですよ」
「それは単なる偶然だろう」
「そうですね」
ミリエルという名前事態そう珍しいものではない。
リンツァー王家の姫君と金髪、それが彼らの持っているミリエル姫の情報だ。もっと詳しい情報があったならばその対応も変わっただろう。