王太子の代理人 2
マーズ将軍率いる軍勢はあっさりと襲撃してきた敵を蹴散らした。
そして、ミリエル姫にあてがわれた客間に向かう。
ミリエル姫専属の護衛をおおせつかったと言う傭兵が出迎えた。
元々は貴族の出だったが、身内の不始末で国にいられなくなったという身の上話を領主がしていた。
長い黒髪を後ろでくくった地味な黒つくめだが、確かに物腰に育ちのよさがにじみ出ている。
そして足元には五人ほどの切り捨てられた躯が転がっている。
切り捨てた本人は、さしたる深手も負っていない。
躯を見る目も凪いだように静かだ。
これはなかなかの掘り出し物かもしれないとマーズ将軍は心中で呟いた。
中肉中背で、美しくもなく、醜くもない容姿も使えそうだ。
「姫君はこの部屋の中か?」
「はい、この奥の寝室にこもっておられます」
扉をノックしてみる。すると、黒いお仕着せにボンネットとエプロン姿の少女が顔を出した。
「あの、マルガリータ様」
唐突に出た女名前にマーズは辺りを見回した。しかし、自分とその側近。そして傭兵しかいない。
しかし、少女はかまわず傭兵のもとに駆け寄る。
「まさか」
彼は棒を飲んだように固まる。この場合、やはりマルガリータ呼ばわりされているのは目の前の傭兵なのだろうか。
そんな彼とその側近達を無視して、少女はマルガリータに切々と訴える。
「お姫様が気絶してます、どうしましょう」
「気絶?」
どうやら襲撃の恐怖で、意識を失ってしまったらしい。
「それならいい、そのまま休ませて差し上げなさい。この家の女中か?」
「いいえ、マルガリータ様のメイドです」
少女はにっこり笑って答えた。
そして少女は視線をさまよわせる、まるで誰かを探すように。
「どうした?」
「王太子殿下はいらっしゃいませんの?」
マーズ将軍は呆れたように、少女の頭を撫でる。
「お嬢ちゃん、気持ちはわかるが、それはもっと後だ。我々は殿下に先行してこちらに来たんだ、ミリエル姫、王太子妃殿下をお守りするためにな」
「あ、そうですか」
少女はどこか気のぬけたような顔をして、再び部屋に舞い戻った。
「ええと、マルガリータ殿?」
「ええ、マルガリータ・ツェレと申します」
あっさりと肯定されて、マーズ将軍は対応に困った。
「あの少女は、貴女のメイドだとか」
「ええ、そうですが」
「お国からつれて来たのか?」
マルガリータは対応に困った。嘘をつくか、それとも本当のことを話すべきか。
あいまいに笑うマルガリータに、マーズ将軍は興味を失ったのか、話題を変える。
「ミリエル姫はお美しい方か?」
「まあ、その範疇には入るでしょう」
当たり障りなくそう答えた。
ミリエルは、気絶したコンスタンシアを強引に叩き起こした。
「王太子は来ていないよ」
それだけ伝えると。コンスタンシアを見据える。
「だから来るまでに何とか考えなきゃ」