近づく時
あたふたとみんなが走っている。
忙しく立ち働く者達を横目に優雅にお茶を飲んでいる男がいた。
パーシヴァルは、華麗なティーセットを並べたテーブルについていた。
そのまん前に居心地の悪そうに坐っている彼の部下。
「いいんでしょうか、こんなことで」
色々と荷物を運んだり、書類を抱えて駆けずり回る姿を視界の隅に入れながらも優雅な姿勢は変わらない。
「ぜんぜんかまわないよ、所詮僕らは部外者だからね」
茶器を扱うその手も優雅な彼は、三倍目のお茶を飲み干した。
「それじゃ、報告ご苦労」
ミリエルが目撃された場所の情報を持ち帰った彼は当然、レオナルドにもそれを報告すると思い込んでいた。
しかし、パーシヴァルはそのまま動かない。
「この情報は確かなんだね」
「間違いありません。グランデで親しくしていた人間からの情報です」
「もちろん、君の判断は間違っていない。あの子のいる館に乗り込んで、あの子をここに引きずってこようなんて真似したら、君の命がいくつあっても足りないよ」
彼の額に冷や汗が浮かぶ。
「噂では聞いていましたが、そこまで凄いんですか」
「もちろんそこまで凄いさ」
きっぱりと断言された。
「それに問題があってね、その館に、ミリエル姫が滞在しているそうなんだ」
返答までに間があった。
「すでに入っていた情報だと言うことですか?」
「いいや、君の情報があの子の最新情報だよ」
パーシヴァルは、茶碗を置いて、焼き菓子を一つつまんだ。
「ある貴族が、賊にとらわれていたミリエル姫を救出したんだって。それで王太子に味方する貴族の館に匿われるように手配したんだって」
聞いているだけで胡散臭さが漂ってくるような話を滔々と語る。
「そのミリエル姫は」
「もちろんうちのあの子じゃない」
パーシヴァルは皮肉に笑う。
「だから、君の判断を僕は評価するよ」
確かに、そんなところに乗り込んでいったら一騒動だ。
「それに、わざわざ伝える必要はないんだよ、だってレオナルドはミリエル姫を迎えにその館に行くためにこうしてばたばたしてるんだから」
パーシヴァルの話を総合的に考えてみる。
そして出た結論は。
「どの道ミリエル姫をお持ち帰りすることになりますね」
「そのとおり、だからわざわざ言わなくてもいいだろう」
その言い分が正しいような、間違っているようなどちらとも言えず彼はにこやかな上司の顔を見据えていた。
扉の前で、マルガリータは数人の敵と相対していた。
館の中まで攻め込んできた。味方はどれほど生き残っているだろう。
焦燥がマルガリータの胸を焼いた。
部屋の中にまで響く剣戟にコンスタンシアは、頭を抱えて震えている。
ミリエルはすでに自らの武器を手にしていた。
チャリと鎖が鳴る音がした。
足を肩幅に開いて、目に見えない部屋の外の気配を追う。
コンスタンシアは周囲の物騒な気配も恐ろしかったが、目の前の武器を構えた少女もまた恐ろしかった。
怯えてすくんでいるのを見てミリエルはちょうどいいと思っていた。
癇癪を起こして泣き喚かれたら厄介だ。
もっと厄介なのは敵が火責めを考えたときだ。
ミリエル姫に死んでもらいたければ間違いなくそうする。
嗅覚も総動員する必要があった。
久しぶりのパーシヴァルです。
そろそろ危機一髪のお姫様に王子様が駆けつけるという話になるでしょうか。